近年、自然災害、パンデミック、サイバー攻撃など、企業を取り巻くリスクがますます多様化しています。このような状況下で、企業が突発的な事態に直面した際にも事業を中断せずに継続するための「事業継続計画(BCP)」の重要性は一層高まっています。本記事では、オフィス運用におけるBCP対策の重要性、具体的な取り組み、押さえておくべきポイントについて解説します。
BCPとは?その目的と基本概念
BCP(Business Continuity Plan)は「事業継続計画」を意味し、地震や火災、システム障害など突発的な事態に際して、事業への影響を最小限に抑え、早期復旧を目指すための計画です。
BCPの目的は、被害を最小限に抑えつつ、迅速な復旧により非常時でも事業を継続することにあります。例えば、地震発生を想定し、優先的に対応すべき業務や手順を事前に定めることで、事業停止リスクの軽減を図ります。
また、BCPは社内業務にとどまらず、取引先や顧客、さらには電力・通信などのインフラへの影響も考慮し、各方面と連携しながら非常時に備えることが重要です。
オフィス運用におけるBCPの重要性
自然災害やパンデミックなど、事業を中断せざるを得ないリスクが年々増している中、企業の拠点であるオフィスにおけるBCP対策がますます注目されています。以下に、オフィス運用におけるBCP対策が果たす3つの役割を解説します。
1.自然災害への対応
BCPは、地震や台風といった自然災害発生時に企業が迅速かつ円滑に業務を復旧させるための指針となります。浸水対策、重要データのバックアップ、代替拠点の確保など、具体的な対策を事前に講じることで、事業中断リスクを抑えられます。また、従業員の安否確認や心理的ケアに関する規定を設けることで、人的被害の軽減や組織の士気を高める効果も期待できます。
2.サイバー攻撃への対応
サイバー攻撃は、企業の機密情報漏洩やシステムダウンを引き起こし、事業や経営に大きな損害を与えるリスクです。BCPでは、サイバー攻撃時の対応手順を明確化し、迅速な復旧体制を整えることでリスクを軽減します。重要データの暗号化、アクセス権限の厳格な管理、バックアップシステムの構築などの施策を徹底し、加えてインシデント対応チームによる定期訓練を実施することで、サイバー攻撃に対する対応力を高めることができます。
3.パンデミックへの対応
新型コロナウイルスの影響により、パンデミックが事業継続に与えるリスクが改めて認識されました。テレワーク体制の構築や感染予防対策、従業員のメンタルケアの強化を通じ、従業員の健康を守りながら事業の安定的な継続を図ります。
効果的なBCPのためのオフィス設計
オフィスは、従業員の安全を守りながら、緊急時に事業を継続する重要な役割を果たします。そのため、オフィスを設計する際には、BCPの観点から非常時における機動性や安全性などを考慮することが大切です。ここからは、BCPの効果を高めるオフィス設計において、押さえておきたい2つのポイントについて解説していきます。
フレキシブルなオフィスレイアウト
フレキシブルなオフィスレイアウトは、BCP対策として非常に有効です。可動式パーテーションを活用したレイアウトは、平時のコミュニケーションの促進に加え、非常時には避難経路を確保するなど、柔軟な対応が可能です。また、複数の拠点に業務機能を分散させることで、被害の集中を避け、早期復旧を目指すことができます。
非常用設備・インフラの整備
非常時に電力や通信設備を確保することは、BCPの重要な要素です。無停電電源装置(UPS)や発電機の設置、ネットワークの冗長化により、業務継続が可能なインフラを整備することが必要です。また、クラウド型ストレージを活用したデータバックアップも重要です。
企業が取るべきBCPのステップ
非常時に強いオフィスづくりのためには、平時よりBCPを取り入れたオフィス運用を行うことが効果的です。ここからは、BCPを活かしたオフィス運用を実現するための5つのステップについて解説していきます。
1.リスク評価
BCP策定の第一歩は、自社が置かれている現場を正確に把握することです。事業内容を分析して継続に不可欠な業務を特定したり、各業務におけるリスク要因と発生時の影響度などを評価していきます。リスク評価においては、業務の重要性だけでなく、特定の人物や場所でなければ遂行できない業務についても分析し、テレワークの活用やバックアップ拠点の設置も検討材料として洗い出していきます。
2.目標設定
次に、リスク評価の結果に基づいて、具体的な対策目標を設定していきます。各業務に優先順位をつけ、どの業務をどの程度の期間内に復旧させるのかを設定していきます。この時、前提となる災害シナリオを作成することも忘れてはいけません。地震や水害、サイバー攻撃など複数のシナリオを作成しておくことで、この後の具体策の策定における解像度を一層高めることができます。
3.対策計画の策定
設定された目標を達成するための具体策を策定してきます。代表的なものとしては、重要データのバックアップ体制の構築や緊急連絡体制の整備、従業員の安否確認システムの導入やテレワーク環境の整備などがあげられます。複数の拠点に機能や業務を分散させる場合は、業務に必要な設備の導入や非常時の機能移管フローの策定も行います。
4.訓練・検証
策定したBCP対策は、訓練と検証を重ねることで実現性を高めることができます。避難経路や消化器の使い方を身につける防災訓練は定期的に実施し、訓練ごとに従業員からのヒアリングなどを通じて効果検証を行い、改善を重ねていきます。同時に、対策計画で定めた設備の導入や人員配置も進めていき、こちらもPDCAサイクルを回しながら精度を高めていきます。
5.見直し
企業を取り巻くリスクは、時代や社会情勢によって常に変化し続けるため、BCPは定期的な見直しが欠かせません。新たなリスク要因の発生や法規制が変更されるタイミングは、特に注意をして現行の計画が有効か否かを検証する必要があります。また、一年を通じてBCPの内容は常に全社員に周知され、変更や追加も都度共有される体制を整備しておくことも重要です。
BCPを考慮したオフィスの条件
ここまで、BCPを取り入れたオフィス運用について解説してきました。この記事を読まれる方の中には、これからBCPと連動させた強靭性の高いオフィスを新設しようと検討している方も多いのではないでしょうか。ここからは、実際にオフィス選びを行う際におさえておきたい4つのポイントについて解説していきます。
1.立地
BCP対策において有効なオフィスを選ぶ際、立地は最も重要なポイントです。地震や洪水などの自然災害リスクが低い地域を選ぶことは、事業継続の観点から欠かせません。また、交通アクセスが良く、緊急時の避難経路が確保されているかどうかもしっかりと確認する必要があります。物件選びの際には、様々な災害リスクを想定しながら、迅速な対応と事業継続が可能かどうかという観点から検討していくとよいでしょう。
2.インフラの整備状況
先述の通り、インフラの整備状況は非常時における事業継続に大きな影響を及ぼします。特に、非常用電源や外部データセンターへのスムーズなアクセスは、重要なデータを守るためには不可欠です。昨今は「BCP対応型オフィス」も増加傾向にあるため、電力供給や通信体制における安全性・信頼性も容易に確認できるようになっています。
3.セキュリティと安全性
オフィス内の安全を確保するために、オフィスビルのセキュリティ体制は重要なチェックポイントです。24時間監視カメラの設置はもちろん、高い耐震性を誇る職場環境の確保により、従業員は平時より心理的安全を感じながら働くことができます。
4.災害時の対応力
入居を検討しているオフィスビルが、過去の災害にどのように対応したかという実績は、BCP効果の高いオフィス選びにおいて有効な判断材料となります。ビル全体の強靭性に加え、管理会社が提供している災害対策プランが充実している場合、災害発生時においても迅速な対応が期待できるため、円滑な事業継続につながります。
オフィスBCPは、企業の未来を守るための必須対策です
自然災害やパンデミック、サイバー攻撃など多様なリスクが取り巻くビジネス環境において、オフィスBCPは、企業の持続性を高めるうえで重要な施策の一つとなっています。BCPという観点からオフィス環境を見直すことで、リスクの最小化と事業の安全性向上を実現していくことが可能です。
しかし、企業経営や防災に関する幅広い専門知識が求められるBCPの策定や社内周知は、多くの企業にとって負担となっており、なかなか取り組みが進まないケースも散見されます。実効性の高いBCPの策定とBCPをしっかりと反映したオフィスの設計・運用を効率的に進めたいとお考えのご担当者様は、豊富な実績と知識を持ったプロの手を借りることをおすすめします。