ABWは、従業員がその日の業務内容や好みに応じて働く場所を自由に選べる新しい働き方です。従業員の生産性を高め、優秀な人材を確保しやすいとされていますが、従来の働き方とは具体的にどのような違いがあるのでしょうか。
そこで本記事では、ABW型オフィスのメリットやデメリット、導入時のポイントについて詳しく解説します。ABWを導入するかどうかの判断材料として、ぜひ参考にしてみてください。
■ABW型オフィスとは

ABW(Activity Based Working / アクティビティ・ベースド・ワーキング)とは、従業員が働く場所を選択する柔軟な働き方のことです。ABWではオフィス以外に、毎日オフィスに出勤する必要はなく、自宅やカフェ、コワーキングスペースなども働く場所の選択肢に含まれます。タスクや目的に応じて最適な環境を選択できることがABWのメリットです。
また、全員分の固定席を用意する必要がないため、オフィスのスペースを効率的に活用できる点もメリットといえるでしょう。
ABWとフリーアドレスの違い
ABWと混同されがちな言葉にフリーアドレスがありますが、働く場所に明確な違いがあります。
フリーアドレスはオフィス内に固定席を設けず、従業員が自由に席を選べる制度です。部署やチームでまとまる必要がなく、フロア全体のコミュニケーションが促進されます。
一方、ABWはオフィス内の自由な席選びに加え、カフェやサテライトオフィス、コワーキングスペースなど、業務内容や状況に応じて働く場所を選べる点が特徴です。
ABWでの働き方を例に挙げると、集中したい業務は静かな自宅で、チームでのブレインストーミングは開放的なコワーキングスペースで行う、といったように場所を使い分けられます。つまり、フリーアドレスはオフィス内の席を自由に選べる制度ですが、ABWではオフィス内外を問わず、働く場所そのものを自由に選べる点が大きな違いです。
以下の記事ではフリーアドレスのメリットやデメリットについて詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。
ABWに向いている業種・職種
ABWは、特にクリエイティブな業務やプロジェクトベースの仕事が多い企業に向いています。広告代理店やデザイン会社、IT企業が代表的な例です。
職種では、外出が多い営業職、社内外の方との接点が多い企画やマーケティング職もABWに適しています。
一方、従業員の居場所を把握する必要がある部署では、ABWはあまり適していません。例えば、経理部門のように機密情報を扱う部署では、従来の固定席やセキュリティが確保された環境での作業が適しています。
ABWの導入を検討する際には、自社の業務内容や各部署の特性を考慮することが重要です。
■ABWを導入するメリット

ここでは、ABWを導入することで得られる4つのメリットをご紹介します。
生産性が向上する
集中しやすい環境は人それぞれ異なります。ABWでは、従業員が集中できる環境を自分で選んで働けるため、生産性の向上が期待できます。例えば、オフィス内でも「電話や話し声が気になる」という従業員は個室スペースを選択し、「多少雑音があったほうが集中できる」という従業員はカフェスペースを選択するでしょう。
このように、業務や特性に合わせて作業場所を選べるため、効率的に仕事を進められます。
オフィス費用を削減できる
1人につき1台のデスクを用意する従来のオフィスでは、従業員全員分の座席を確保する必要があります。そのため、従業員が多ければ多いほど広いフロア面積を確保しなければならず、賃料や光熱費も高額になりがちです。しかし、ABWを導入すれば常時全員がオフィスにいるわけではないため、スペースを効率的に使用でき、賃料や光熱費などの固定費を抑えられるでしょう。
人材の確保や維持につながる
働き方に対する価値観が多様化している現代では、柔軟な働き方を求める人が増えています。ABWを導入することで、従業員それぞれのニーズに応じた働き方が可能になるでしょう。
例えば、自宅から会社までの距離が遠く通勤に時間がかかる従業員や、集中力を高めるために静かな環境を求める従業員なども、ABWであれば柔軟に対応できます。従業員が自身に合った職場環境を選べることで、労働環境に対する満足度が向上し、結果的に離職率の低下につながるでしょう。
また、柔軟な働き方を提供する企業は、求職者にとっても魅力的な職場に映り、優秀な人材を引き寄せやすくなります。
新しいアイデアが生まれやすい
ABWは、オフィス内で席を変えるだけでも気分転換になり、普段は関わりの少ない人同士がコミュニケーションを取る機会も増えます。これにより、異なる視点や知識が融合し、新しいアイデアの創出に期待できます。
さらに、カフェや自宅でリラックスしているときに、新しい発想が生まれることもあるでしょう。
働く場所が自由になることで従業員は刺激を受け、創造性を発揮しやすくなります。
■ABWを導入するデメリット

ABWにはメリットだけでなくデメリットや課題も存在します。ここでは、代表的な3つのデメリットをご紹介します。
勤怠管理が複雑になる
ABWでは、オフィス以外の場所でも働くことがあります。しかし、カフェや自宅には固定席やタイムカードがありません。
そのため、オフィス勤務を前提とした従来の勤怠管理では、オフィス以外で働く従業員の勤怠や成果を正しく把握するのは難しいでしょう。適切に評価されないと従業員の意欲低下につながりますが、反対に勤怠ルールを厳しくしすぎても不満の原因になります。
そのため、ABWを導入する前には、勤怠管理や人事評価の方法を整備することが大切です。ABWは従業員が自律的に働く場所を選べる仕組みですが、企業がただ任せるだけでは十分に機能しません。社内ルールを明確に決め、それを全員が理解できるように、しっかりと周知しましょう。
部門内のコミュニケーションが不足する恐れがある
ABWでは、同じ部署内であっても従業員同士が直接顔を合わせる頻度が減り、コミュニケーションが不足する可能性があります。特に、まだ業務に慣れていない新人や若手従業員の孤立が懸念されます。そのため、積極的にコミュニケーションを図り、チームの結束力を維持するための工夫が必要です。
代表的な方法としては、オンラインツールを活用して、リモートワーク中でも円滑にコミュニケーションを取れる仕組みを整えることが挙げられます。
他にも、「メンター制度を導入し、新人や若手がいつでも相談できるようにベテランの従業員を配置する」「定期的にチームミーティングや社内イベントを開催する」といった方法があります。
セキュリティリスクが高まる
企業では個人情報の取り扱いに厳重な注意が必要です。ABWでは業務用のPCや備品を外に持ち出す機会が増えるため、セキュリティリスクが高まります。
情報漏洩のリスクを軽減するためには、全従業員に対して機密情報の取り扱いに関する教育とトレーニングを徹底し、意識を高めることが大切です。
■ABW導入5つの手順
ABWを成功させるには、明確な目的設定と段階的な計画が不可欠です。ここでは、ABW導入を成功に導くための具体的な手順を解説します。
1. ゴールの設定 | ・ABW導入のゴールを明確にする ・誰もがイメージしやすい具体的なゴール設定が重要 ・経営層や主要部門のリーダーに設定したゴールを共有する |
2. 現状の把握と課題の特定 | ・アンケートやヒアリングで、現在の働き方やオフィスに対する不満、どのような働き方を求めているかを調査 ・現状の課題を洗い出し、新しいオフィスに何が必要かを把握 |
3. オフィスの設計とゾーニング | ・仕事内容に合わせて場所を選べるようスペースを工夫する ・フォーカスゾーン(集中作業用)、ブース(Web会議・通話用)、コラボレーションゾーン(協働作業用)、リラックスゾーン(休憩・雑談用)など、業務の内容に応じて配置 |
4. 社内ルールの策定と周知 | ・荷物の置き場所、利用後の片付け方法などルールを策定 ・ルールづくりに従業員が参加すると、納得して守られやすくなる ・説明会やマニュアルを通じて全社員にルールを周知する |
5. 導入後のフォローアップと改善 | ・導入後も定期的に従業員の意見を収集し、新しい働き方やルールが定着しているか検証 ・アンケートや利用状況のデータ分析を通じて、課題が見つかればレイアウトやルールを柔軟に改善する |
この手順で進めれば、従業員が快適に働ける環境を実現し、生産性と創造性を高める効果が期待できます。
■最新事例から見るABW導入の効果
ここでは実際にABWを導入した事例をもとに、各社がどのように新しい働き方を成功へと導いたのか、プロセスと秘訣を明らかにします。
1.ミツイワ株式会社 様
従業員数の増加、スペースの不足などさまざまな課題を背景にオフィスを移転したミツイワ株式会社様。柔軟な働き方や多様性へ対応するため「やりたい環境で仕事ができる場」を目指した結果、ABW型のオフィスが実現されました。
さまざまなセクションの従業員が同じフロアで働けるオフィスの構成は、部門間の垣根を超えて自然なコミュニケーションが生まれています。従業員からは「本当に仕事がしやすくなった」という声も聞かれ、エンゲージメント向上にもつながっていると実感されています。
部門を超えた繋がりや円滑なコミュニケーションを促進し、従業員一人ひとりのパフォーマンスが最大限に引き出せる取り組みといえるでしょう。
お客様を招いてのオフィスツアーも可能に!社員が仕事をしやすい環境を考えて実現した「コミュニケーションHUB」ミツイワ大崎オフィスの見学ツアー
2.TIS株式会社 様
TIS株式会社様は、グループの一体感醸成のため豊洲にオフィスを開設し、ABWを導入しました。この取り組みにより、従業員は働く場所を自由に選択できるようになり、育児や介護中でもフルタイムでの勤務が可能になったそう。
出社ルールについては会社として一律のものはなく、部門やチームが自分たちで働き方を決める仕組み。出社を強制しないなか、オフィスへ「行きたい」と思わせる工夫として、部署の垣根を超えた交流イベント「TIS縁結び」や、グループ拠点のある各地の物産品販売イベントや社員食堂でのご当地メニュー提供など、ソフト面から出社機会を創出しています。
ハードとソフトの両面から戦略的にオフィスをデザインすることで、従業員のエンゲージメントと創造性を高め、企業の持続的な成長を後押ししています。
自由に働き方を選べるからこそ、出社したくなる環境・機会を用意する。TIS 豊洲オフィス見学ツアー
■ABWを成功させるためのポイント

ABWを成功させるためには、導入前にしっかりとした準備と計画が不可欠です。ここでは、成功のポイントをご紹介します。
マネジメント方法を見直す
ABWでは、従来の勤怠管理や人事評価のシステムをそのまま利用するのは難しい場合があります。特に、自宅やカフェなどオフィスの外で働く場合、実際の労働環境を直接確認できないため、法定外の残業が発生しても把握しづらくなります。
その対策として有効なのが、勤怠管理システムの導入です。これにより、オンラインで出退勤を記録し、リモートワーク中の労働時間を正確に把握できます。従業員の労働時間や休暇の状況をリアルタイムで確認できるため、過剰労働の防止にも役立つでしょう。
さらに、人事評価制度の見直しも必要です。勤務時間や出勤日数を基準にするのではなく、設定した目標とその達成度で評価する「目標管理制度(MBO)」を取り入れると効果的です。これにより、従業員の成果や貢献度を公正に評価でき、モチベーションの向上にもつながるでしょう。
従業員の意識改革を行う
ABWの導入には、従業員の意識改革も欠かせません。経営陣がABW導入を宣言しても、従来通り「全員が出社して、いつも同じ席で仕事をする」という状態では、ABWの効果を最大限に発揮できません。
新しい働き方に対する理解と協力を得るためには、教育やトレーニングが必要です。例えば、ABWのメリットや実際の運用方法について説明するセミナーを開催し、従業員の理解を深めることが重要です。
従業員がABWの本質を理解し、その恩恵を実感することで、徐々に浸透していくでしょう。
セキュリティ対策を強化する
ABWではセキュリティ対策の強化が不可欠です。
パソコンやタブレット、スマホにはセキュリティソフトのインストールを徹底しましょう。他にも「データの暗号化」や、万が一の際にデータを遠隔操作で消去できる「リモートワイプ」も有効です。これらの対策により、情報漏洩のリスクを最小限に抑えられます。
■まとめ

ABWの導入で、生産性の向上やコスト削減、人材の維持など、多くのメリットを享受できます。
しかし、ABWにはいくつかの課題も伴います。導入前にその特徴を十分に理解し、事前に対策を講じることが重要です。
なお、ABW以外にも働き方を見直す方法はあります。より効率的で創造的なビジネス環境を構築するためには、「HATARABAサーベイ」の無料相談がおすすめです。
「HATARABAサーベイ」は、オフィスの利用状況を可視化し、部署・役職・職種など多角的な視点から定量的に分析することで、オフィスの課題や改善点を明らかにします。これにより、オフィスを最適化するための合理的な意思決定が可能となり、理想のワークスタイルを実現できるでしょう。
ABWを含めさまざまな働き方を検討し、企業全体の成長と発展を目指しましょう。