近年、ハイブリッドワークが定着するなかで「出社したくなるオフィスづくり」が注目を集めています。その鍵の一つが“窓”の活かし方です。自然光を取り込み、外の景色とつながることで従業員の心理的な快適さや創造性を高める効果が期待できます。
この記事では、窓からの景色を重視したオフィス選びと、その眺望を活かすレイアウトの工夫、従業員の出社意欲向上やコミュニケーション活性化のポイントをまとめました。空間設計の工夫が働く人の意識をどう変えるのかを探ります。
あなたの会社は「働きやすいオフィス」ですか?
働き方改革やハイブリッドワークの普及により、オフィスの存在価値は「働く場所」から「働く体験を支える空間」へと変化しています。
“働きやすいオフィス”の実現には、最新の設備や家具を備えるだけでなく、オフィス環境そのものの工夫が欠かせないでしょう。従業員が心身ともに健やかに働き、自然なコミュニケーションが生まれる空間をつくることが重要です。
そこで注目したいのが、オフィスの「窓」や「眺望」の力です。自然光や開放的な外の景色は、ストレスの軽減や集中力の向上につながり、人の心を穏やかに整えます。また、窓際に共有スペースを設けることは、従業員の会話や交流を促す場として最適です。窓は単なる開口部ではなく、働く人の心理と関係性を育む要素といえるでしょう。
なぜ眺望が「働きやすいオフィス」を実現するのか?
視界に入る景色は、私たちの「健康」「集中力」「コミュニケーション」といった、行動や感情と密接に関わっています。環境心理学の研究でも、自然光や外の景色に触れることでストレスが軽減し、集中力や創造性が高まるとされています。
窓の外に広がる空や街並み、緑といった眺望は、視覚的な「リセット」を生み、思考や気持ちを切り替えるきっかけにもなるでしょう。眺望は働く人の心を整え、オフィス全体の快適さと生産性を向上させる静かな要素といえます。
「働きやすいオフィス」に不可欠な3つの要素と「眺望」の関連性
「働きやすいオフィス」を実現するには、働く人の心と体を支える環境づくりが欠かせません。ここでは、眺望に深く関わる3つの要素を解説します。
① コミュニケーションの活性化
従業員の活発なコミュニケーションはチームワークを強化し、創造的な発想を生み出す原動力となります。その場づくりにおいて有効なのが、窓際の空間活用です。
自然光に包まれ眺望を楽しめる共有スペースやカフェエリアは、開放的な雰囲気を生み、従業員が自然に集まりやすい環境をつくります。外の景色を眺めながら交わされる何気ない会話は、職場の風通しを良くし、部門や立場をこえたつながりを生むきっかけにもなるでしょう。こうした偶発的な交流から、新たなアイデアや協働の芽も生まれます。
② 心身の健康と生産性
窓からの眺望は従業員の心を落ち着かせ、ストレスの緩和に効果的です。外の景色を眺めると短時間でも心身をリフレッシュでき、長時間の業務でも無理なく集中力と生産性を維持しやすくなります。
こうした環境は従業員の健康を支えるだけでなく、企業の健康経営を後押しする「環境面のサポーター」としても重要な役割を果たすでしょう。
③ 心理的な開放感
窓のない閉鎖的な空間では、人は無意識のうちに圧迫感や緊張を覚え、心身の疲労を感じやすくなります。一方で、窓から外に視線を向けられるオープンな空間では、自然と気持ちが前向きになり、思考も柔軟になる傾向があります。
窓からの眺望がもたらす開放感は、気持ちをリセットする助けとなり穏やかに働ける環境をつくります。視覚的な抜けのある環境は「安心して働ける心理的安全性」を支える重要な要素といえるでしょう。
【事例紹介】「窓からの景色」を活かして働きやすさを実現したオフィス
ここでは「窓からの景色」を効果的に取り入れたオフィス事例を、先に挙げた「①コミュニケーションの活性化」「②心身の健康と生産性」「③心理的な開放感」に照らし合わせて紹介します。
CASE1:開放的な大きな窓のある日当たりのいい職場(AIQ株式会社 様)
AIQ株式会社様は、創業が秋葉原であることから神田・秋葉原エリアで活動する機会が多かったため、土地勘のある地域で築浅かつ日当たりのいい物件を探していました。移転先の後楽森ビルに構えた新オフィスは、窓から首都高速や神田川を望む眺めが広がり、自然光を室内に取り込める明るい空間です。
広がりのある空間は、働きやすいオフィスに不可欠な要素のうち「②心身の健康と生産性」や「③心理的な開放感」を実現した事例といえるでしょう。
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CASE2:「働く人が主役のオフィス」空が広がる開放的な眺望(株式会社メディアエイド 様)
株式会社メディアエイド様が恵比寿ガーデンプレイスに構えた新オフィスは、高台に位置し、遮るもののない開けた眺望と窓越しに広がる空の開放感が魅力です。
「噓偽りのない姿勢」を大切にするメディアエイド様は、その理念をオフィスデザインにも反映しました。オフィスの仕切りや壁を取り払い、透明感のある開放的な空間を実現。会議室もガラス張りとし、内外に誠実さとオープンな文化を体現しています。
新オフィスでは、出社を義務づけているわけではないにもかかわらず、自発的に出社を選ぶ従業員が増えました。これは、働きやすいオフィスに不可欠な要素のうち①「コミュニケーションの活性化」を実現した事例といえるでしょう。
新時代のビジネスに信用力をプラス ブランディングにもつながるオフィス移転戦略
CASE3:窓から見えるシンボルの東京タワーが決め手に(TXOne Networks Japan合同会社 様)
TXOne Networks Japan合同会社様は、新オフィスのコンセプトに「オフィスから見える景色」を重要なポイントとして掲げ、東京タワーを望む眺望が魅力の虎ノ門ヒルズステーションタワーに移転しました。
窓際には昇降式デスクや一人で集中できるブース、1on1に適した2人用ブースを設け、気分や業務内容に合わせて柔軟に利用できます。こうした工夫は、働く人が心地よく過ごすための③「心理的な開放感」を生み出す、働きやすいオフィスづくりの好例といえるでしょう。
展示会を待たずにデモをお見せできる空間をオフィスに。多くのエンタープライズが本社を構える虎ノ門エリアにオフィスを構え、ニュース性のある移転プロジェクトを実施
景色を活かすオフィス選び、3つの注意点
景色をうまく取り入れたオフィスは、働く人の快適さと創造性を高めます。しかし、ただ「眺めの良い場所」を選べばいいわけではありません。ここでは、景色を活用できるオフィス選びの3つの注意点を紹介します。
①方角と日当たり
窓からの自然光はオフィスを明るく快適にしますが、時間帯によってはまぶしさや室温上昇の原因にもなります。さらに、窓は外気の影響を受けやすく熱の出入りが起こるため、窓際の席では暑さや寒さを感じやすいこともあるでしょう。
室温の快適さを保つためには、ブラインドやハニカムスクリーンといったウィンドウトリートメントの活用や、ガラスの断熱フィルム施工が効果的です。採光と断熱のバランスを意識し、光を上手に取り入れながら熱を遮ることで、季節を問わず快適に働ける環境を実現できます。窓の魅力を活かしつつ、働きやすさを長く維持するための工夫が重要です。
②周辺環境の将来性
オフィスの眺望は、現在の景色だけでなく「将来的に眺望を維持できるかどうか」も重要な検討ポイントです。どのような立地でも近隣に高層ビルや商業施設が建設される可能性は常にあり、せっかくの眺望が数年後に失われるリスクもあります。
物件を選ぶ際には、用途地域や建ぺい率、容積率、道路斜線制限、セットバック規制などを調べておくと将来の隣接建築の高さや位置をある程度予測できるでしょう。特にセットバック規制がある区域では、建物が道路から後退して建てられるため、眺望の圧迫感を避けやすくなります。
また、自治体が公開している都市計画や再開発情報も参考にし、長期的な眺望の持続性を見極めることが大切です。
③レイアウトから逆算する、景色を活かす物件選びの視点
眺望の価値は、それを活かすレイアウトがあってこそ最大限に引き出されます。そのため、オフィス選びの段階から「この窓際をどう使うか」を具体的に想定することが成功の鍵です。
物件の内見時には、窓際に共有スペースを設ける広さがあるか、柱などで視線が遮られずオフィス全体から景色が見えるかなどを確認しましょう。
レイアウトは移転後に考えるのではなく、物件選びと一体で進めるべき重要な戦略です。この視点を持つことで、心地よさと働きやすさを両立するオフィスを実現できます。
まとめ
自然光や眺望は、働く人の気持ちを穏やかにし、集中力やコミュニケーションを自然と引き出します。「働きやすいオフィス」は、デザインや制度を整えるだけでなく、心地よく過ごせる環境づくりから生まれるものです。
光や風、景色といった自然とのつながりは、日々の仕事に前向きなエネルギーを与えてくれます。オフィス選びでは、設備や立地と合わせて「窓からの景色」にも目を向けてみませんか。眺望を取り入れることで、働く時間がさらに豊かで快適なものになるでしょう。