まちの活気を発展させるために、建物ができること
八重洲の歴史を踏襲し、ウェルビーイングの息吹を吹き込む、東京建物の挑戦

東京駅前という都心でありながら、歴史的な風情が色濃く残り、親しまれてきた八重洲エリア。まちの活気を持続しながら、より発展させるためのまちづくりが進んでおり、2026年に「東京駅前八重洲一丁目東B地区市街地再開発事業」(以下「八重洲プロジェクト」)が竣工予定です。

1896年(明治29年)の創業以来、東京駅前の八重洲・日本橋・京橋(YNK)エリアに本社を構えてきた東京建物株式会社は、地域の方と議論を重ねながら、まちの未来を共に考えてきました。

今回、八重洲プロジェクトを通して東京建物が描く世界観や目指す未来について、開発担当の三浦拓実さんにHATARABA日本橋支店長代理の椎名俊匡がお話を伺いました。

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土地に刻まれた歴史を守りつつ、八重洲に新たな息吹を

ー東京駅の目の前という希少な立地で進行する八重洲プロジェクトですが、このエリアならではの特徴や背景について教えてください

三浦

たしかに八重洲プロジェクトは国内でもめったにない一等地の再開発だと思います。

駅を挟んで反対側に位置する丸の内や大手町エリアはすでに再開発が完了している印象が強いと思いますが、八重洲周辺はまだまだこれから再開発されるエリアが多く存在します。

丸の内や大手町は、もともと大名屋敷があった広大な土地であるのに対し、八重洲は職人たちが集まり、ものづくりから飲食店まで多様な商いが営まれていた場所です。そのため、従来から商売を営まれていた地権者の方々が多くいらっしゃいますので、地権者の方を中心に、皆さまお一人お一人と一緒に、今後のまちづくりに向けた議論を重ねてきました。

椎名

八重洲の古地図を見ると、元大工町、南鍛冶町、桶町、北紺屋町といった職業にちなんだ地名が並んでいて、三浦さんのお話がよく理解できます。

現代においても、丸の内エリアは整然とした秩序ある景観ですが、YNKエリアは小さな区画に小規模なオフィスビルや商店が建ち並んでいますよね。昔の面影を彷彿とさせる町並みだと感じます。

三浦

そうなんですよね。

かつて歌川広重が居を構え、狩野派をはじめとした襖絵職人も多く活躍していた系譜を汲んで、今でもギャラリーが集積していたり、江戸前寿司や蕎麦、鰻といった伝統的な日本食を守り続ける店が多くあったりと、文化的にも周辺のまちとは異なる要素を受け継いでいるエリアです。

また戦後にかけて多くの企業が集積し、平日は多くのビジネスパーソンが行きかい賑わっています。一方で、土日は平日と比較するとまちを歩く人が少ない傾向がありましたし、建築物の老朽化等で、防災面での課題も指摘されていました。古き良き八重洲らしさを残しつつ、そうした課題を解決し、より活気あるまちづくりを目指すために、八重洲プロジェクトはスタートしました。

私自身は、オフィスの内装計画やソフトサービスを実装するフェーズからこのプロジェクトに携わりました。いわば、権利者の皆様や当社の先輩たちの想いを具体の形にするために魂を吹き込む仕事であり、とてもやりがいを感じています。

企業で働くワーカー一人ひとりが「自分たちのウェルビーイング」を見つけられる場所

-<ウェルビーイング>を軸に企画・開発をされたと伺いました。そういった施策をしているビルは珍しいのでしょうか?

椎名

弊社はオフィス移転コンサルティングを専門にしており、私自身もビルマニアなのですが、これほどまでに<ウェルビーイング>を重視し、取り入れているビルは非常に稀です。

八重洲プロジェクトは、単に新しいオフィスビルができるということだけではなく、「オフィスそのもののあり方」や「そこで働くことへの価値観」を大きく変える可能性があり、オフィス業界でも非常に注目を集めています。

三浦

コロナ禍でテレワークが普及し、オフィスの在り方を模索する企業が増えたこともあり、テナント企業に提供できる価値としてウェルビーイングに注目する傾向が業界内で強くなっていると感じています。健康経営の重要性は既に企業に広がっていますが、ここ数年で、従業員一人ひとりの心身の充実を促すことで生産性向上や離職率低下につなげようとする、所謂「ウェルビーイング経営」は、企業が長期的な企業価値の向上を図るうえで欠かせない取り組みになりつつあります。

椎名

ウェルビーイングとは個人の主観的な状態を指す言葉であり、その人が身体的・精神的・社会的に満たされた状態を意味します。なので何をするとウェルビーイングの向上に繋がるかは、一人ひとり異なりますよね。サービスを考えるうえでは、そこが難しいところなのかなと思いますが…。

三浦

我々がウェルビーイングに向き合う中で感じたポイントは、まさにそこです。個々人においても、「自分のウェルビーイング」を明確に把握できている人はごく少数でしょう。また、企業にとってもそこが課題だと思うんです。企業は、従業員のウェルビーイングに取り組むことの重要性を実感しているし、取り組む意欲もあるけど、何をしていいかわからない。あるいは、健康診断の奨励やジムの費用補助などといった既存の福利厚生の充実に終始してしまい、効果につながっている実感が得られない、といった悩みを抱えていることが多いのではないでしょうか。

従来のまちづくりでオフィスワーカーに提供されているのは、医療施設やクリニック、ジム、自然環境といった何となく、「健康になりそう」とか「気持ち良い環境で働けそう」な環境の提供に留まっていた印象です。

人によって異なるウェルビーイング向上に繋がる要素へアプローチするために、手軽に自身の状態を把握し、普段の行動の中でウェルビーイングに取り組むことができるような指標を開発できないか、そして指標を活用し、もう一歩踏み込んで、具体的なサービス体験を提供したい。そんな想いを形にするためのプロジェクトチームとして「Well-being Lab.」を発足しました。また、予防医学研究者・石川善樹先生監修のもと、首都圏で働くビジネスパーソン1 万人に調査を実施し、どのような行動や状況がウェルビーイングの向上に資するのかを分析した20 個の「ウェルビーイング向上因子」を特定しました。

ウェルビーイング向上因子

三浦

わたしたちが目指したのは、豊富なサービスや空間の選択肢から、「自分たちにとってのウェルビーイング」を見つけてもらえるビルです。

このビルで働くワーカー一人ひとりが、ウェルビーイングにまつわる多様なサービスを体験し、自らの状態を可視化することで自分と向き合う機会を創出することで、自分らしく生きるきっかけを作れたら良いなと思っています。仕事の合間のリトリートのために瞑想や仮眠を取り入れてみたり、八重洲プロジェクト内に整備される劇場で芸術に触れてみたり…。色々試していただく中で、心身に良い変化を与えるきっかけを見つけてもらえたらうれしいですね。

三浦

企業にとっては、このビルに入居するだけで、自ら整備するだけでは賄いきれない環境やサービスを使用でき、それを従業員に提供することができます。ワーカーがそのサービスに魅力を感じ、そんな場を提供してくれる企業で働きたい、と思ってもらうことで、ほぼ全ての企業に共通する課題である「人材の獲得・維持」に貢献することができるのではないかと考えています。

椎名

企業がやりたいこと、やるべきことをビルが代わりにやってくれるという感じですね。経営課題の解決や健康課題の推進を担う経営企画、人事、総務といった部門の方々の負担軽減にもつながりそうです。

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ウェルビーイングの社会実装に意欲あるスタートアップと連携し、先進的なサービスを展開

-サービスラインナップについて、一例をご紹介いただけますか

三浦

先ほど少し触れた瞑想や仮眠は、「RE:TREAT Room(リトリートルーム)powered by Upmind」という個室空間での提供を予定しています。瞑想は、東京大学と共同研究をしながらマインドフルネスアプリを展開するUpmind株式会社と共同で開発し、八重洲プロジェクト独自のプログラムを提供します。アイデアがほしいときや気持ちをリセットしたいときに役立つ、マインドフルネスの習慣化をサポートします。

全国の源泉を凝縮抽出・モバイル化する「クラフト温泉」で特許を取得している株式会社LeFuroとは、服を着たままオフィス環境で高濃度ミネラルを含む温泉ミストを浴びて一息付ける「喫泉室」を整備します。実証実験後のアンケートでは、95%が「気分転換に効果があった」と答え、約75%が「心地よい時間だった」と回答しました。

椎名

心身の健康に注目してサービスを展開している企業と積極的にコラボしているんですね。

三浦

今挙げた2社は、当社が参画したアクセラレータープログラムで出会い、まだ世の中にない先進的なサービスを、社会に実装するために取り組んでいるスタートアップ企業です。生まれたての技術を実装し、ビル内利用者の意見を吸い上げて、彼らの商品開発に活かすマーケティングの役割をビル側が果たすことができれば、提供するサービスが常に刷新され続け、入居するテナント企業様とその従業員さんにとっても喜んでもらえる、そんな好循環が生みだせるのではないかと考えています。

椎名

オフィス移転を多く手がけるわれわれとしては、本来なら賃料がとれるスペースを丸々ワンフロア使って、共用フロアをつくるという計画にもかなり驚きました。

三浦

人とのつながり」もウェルビーイングにとって重要な要素です。昨今は企業ごとに、社員同士のつながりを深めるためにコミュニケーションスペースや飲食スペースをつくったり、多様な働き方をサポートする設備を整えたりするケースが多いと思いますが、どうしても初期投資がかさみますよね。そこで、そういった設備や仕掛けをビル側で用意しました。企業を超えたつながりを生むコミュ二ケーションスペースや、オフィスワーカーの心と体に良い食事を、さらには地球にも優しい食材を用いて料理を提供する食堂を、ビルの共用部として整備します。テナント様間の垣根を越えて交流を促進するイベントの企画運営なども仕掛けていく予定です。

三浦

絶えずウェルビーイングに関する新たなサービスを、実験的に導入・提供し、ウェルビーイングサービスを進化させ続ける場として「Wab.(Well-being ×Lab.の略)」と名づけました。仮に、ウェルビーイングに関わるサービスや製品の開発を目指す企業が八重洲プロジェクトに入居される際には、実際にビルに導入できるような仕組みも整え、コラボレーションをしていきながら良い意味で当社と一緒になって実験的にビルを使っていただきたいですね。入居する企業、サービスを開発提供する企業、そして働く社員の皆さんの3者にメリットがある「三方良し」の状態を作っていけたらと考えています。

Wellbeing-Lab.での研究の中で、「いかにして一人ひとりに多様な働き方の選択肢を提供できるか」が、ウェルビーイングを高めるために重量なポイントになることもわかってきました。八重洲プロジェクトでは、Wab.をサードプレイスとして利用していただくだけでなく、フレキシブルに活用できるシェアオフィス、貸し会議室、カンファレンスホール、各所に設置予定のワークブース等、多種多様な場所を提供します。また、内装や家具、設備をビル側が整え入居企業が気軽にオフィスを増減できるセットアップオフィスも整備予定です。激しく変化する時代に対応するワーカーや企業の要望に柔軟に応えられるようにしていきたいと考えています。

サービスに対する評価を可視化していく取り組みも

三浦

企業によって、ウェルビーイングや健康経営の文脈で抱える課題・求める取り組みは異なります。八重洲プロジェクトのオフィスで実装するワーカーズアプリを活用して、入居企業のワーカーが体験したウェルビーイングサービスに対する評価・改善点を抽出し、各企業のニーズに合わせてコンテンツやテーマ設定を検討する仕組みも考えています。当社自らが積極的に運営に携わり、ウェルビーイングを通じて企業の経営課題解決をサポートしながら伴走することこそ、単なる管理会社に留まらない弊社ならでは役割だと思っています。

椎名

お話を伺い、ハード面を超えた新しい不動産の可能性が見えてきました。従来、オフィスビル選びでは「立地」「賃料」「広さ」が重視されてきましたが、八重洲プロジェクトの完成によって、<ウェルビーイング>といった新たな評価軸が、今後の選択基準に加わる時代が到来するでしょう。その意味でも、このプロジェクトは次世代のビルの先駆けとなると確信しています。

訪れるすべての人に、セレンディピティを起こせる場所に

三浦

当社は、今回掲げるウェルビーイングの取り組みがきっかけとなって、八重洲を訪れるオフィスワーカー一人ひとりから、組織、企業へ、そしてYNKエリアへウェルビーイングが波及していく未来をイメージしてプロジェクトを進めています。

個人的にも、社会をより良くするためにオフィスで働く人、休息しながら自分と向かい合う人、飲食店で食事を楽しみながら仲間と語らう人、コンサート・演劇等エンタメで熱狂する人、様々な目的をもってこのまちに足を運ぶきっかけを創出したいですね。そうした人たちが混然一体となって交わり、セレンディピティを起こせるような場づくりに貢献することが、昔から独自の地域性をつくりだしている八重洲らしさにつながると信じて、駆け抜けたいと思います

椎名

私たちも、八重洲の未来に少しでも貢献できるように、ビルの魅力を多くの企業様に伝えていきたいと思います。竣工を楽しみにしています!

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この記事を書いた人

HATARABAコラム編集部

HATARABAコラム編集部によるコラムです。オフィス移転やオフィスづくりなど、『はたらく場所を、もっとよくする。』ためのお役立ち情報を発信しています。

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