近年、オフィス環境は企業にとって重要な成長戦略の一環となりました。そして、オフィスを自社ビルにするか賃貸にするかという点は、戦略策定において欠かせない検討事項となっています。しかし、実際にどちらの方が自社のオフィスに適しているかについて、明確な答えが出せていないケースも少なくないのではないでしょうか。本記事では、自社ビルと賃貸オフィス双方がもたらすメリット・デメリットに加え、自社に最適なオフィス選びのポイントについても解説していきます。
自社ビル?賃貸?現在のオフィス事情

オフィスは企業の成長戦略において、単なる作業空間を超えた重要な役割を担うようになりました。特に、自社ビルと賃貸オフィスの選択は、企業の長期的なビジョンと密接に関わる戦略的決断です。
現状として、企業の成長段階や事業戦略によって、オフィスに対するニーズは大きく多様化しています。スタートアップ企業や成長期の企業では、柔軟なオフィス環境を求め、賃貸オフィスを選択する傾向が顕著です。一方、成熟した大企業や老舗企業は、自社ビルを保有することで、企業ブランドの向上や安定した事業基盤の確立を目指すケースが見られます。
しかし、自社ビルと賃貸オフィスのどちらが最適かは、企業の財務状況、事業の将来性、従業員のニーズなど、多くの要因を考慮する必要があります。
したがって、企業は現状分析に基づき、自社の長期的な目標と従業員の満足度を最大化するオフィス戦略を慎重に策定することが重要です。
自社ビルと賃貸オフィスのメリット・デメリット

多くの企業が賃貸オフィスを選ぶ傾向があるからと言って、自社ビルを持つことにメリットが全くないということではありません。詳細については後述しますが、自社ビルと賃貸オフィスには、それぞれ以下のようなメリットとデメリットがあります。
比較ポイント | 自社ビル | 賃貸オフィス |
イニシャルコスト | 高い | 低い |
ランニングコスト | 比較的低い | 高い |
オフィスの自由度 | 高い | 低い |
リスク | 資産価値の低下 老朽化による修繕コスト |
ランニングコストの上昇 |
その他 | 企業イメージ向上の効果あり | 迅速な事業展開へ対応できる |
詳しくみていきましょう。
自社ビルのメリット・デメリット
ここからは、上記表であげた5つの視点から、自社ビルにオフィスを構えることで想定されるメリットとデメリットを解説していきます。
・イニシャルコスト
ビルの購入費用に加え、工事費用や設備投資費用など初期費用が高額になる。近年は、中古物件に循環型エネルギーシステムや従業員のウェルビーイングに配慮した設備などのリノベーションを施すことで、初期費用を抑えながらオフィスの持続可能性を高めるという手法が定着しつつある。
・ランニングコスト
賃料変動の影響を受けないため、長期的な費用が安定しやすい。一方で、昨今の修繕・管理費の高騰は、自社ビル離れの一因となっている。
・オフィスの自由度
内装や設備の自由な設計・変更が可能なため、自社に最適なオフィスづくりが可能。従業員満足度向上や帰属意識強化にも効果が期待できる。
・リスク
不動産価格の変動による資産価値の低下に加え、老朽化に伴い修繕コスト・管理負担が増える。自然災害による被災リスク増大も大きな懸念点。
・その他
現物資産である自社ビルを保有することで、財務基盤の健全性をアピールすることができ、社会的信用・企業イメージの向上につながる。また、不要になった場合や資金調達が必要な際には、売却して現金化することも可能。昨今は、ESGへの配慮や資産の利回りといった点から、投資家が自社ビル保有を望むケースもある。
賃貸ビルのメリット・デメリット
続いて、賃貸オフィスを利用することのメリット・デメリットについて解説していきます。
・イニシャルコスト
入居時には、敷金・礼金や保証金に加え、オフィス内装構築費などの費用が発生。これらの費用を含めても、自社ビルの購入コストと比較すると、初期費用をかなり抑えることが可能。ただし、都心部のオフィス賃料上昇により、初期費用全体が増加傾向にある点には注意が必要。
・ランニングコスト
賃料・共益費・修繕費などが定期的に発生。経年劣化による修繕費の値上げや、周辺地価の上昇による賃料の値上げによりランニングコストが増加する可能性も。
・オフィスの自由度
入居するテナントビルの構造やルールに合わせたオフィスづくりとなるため、空間や設備の設計が制約される。スケルトンをはじめとする自由度の高い物件を選ぶことで、自社に適したオフィスデザインを実現しやすくなる。
・リスク
賃料を含むランニングコストの上昇。入居後に値上げ交渉が行われる場合もあり、同意できない場合は短いスパンでの移転を繰り返すことになり、コスト増のおそれも。
柔軟に移転できるという賃貸の利点が長期的なコスト増に転じる可能性も注意したい。
・その他
事業規模や組織が拡大中にあるスタートアップなどは、初期投資を抑えた柔軟なオフィス運営が可能。急な事業環境の変化にも迅速に対応できる点がメリット。
自社に最適なオフィス選びのポイント

ここまで、自社ビルと賃貸オフィスそれぞれのメリットとデメリットに加え、昨今の社会の潮流からみた懸念点などをあげてきましたが、これらはあくまで一般的な考えに基づいて比較したものです。実際はそれぞれの企業が置かれている状況や、経営者・従業員個々のニーズによって最適な選択は変わってきます。ここからは、自社に最適なオフィスを選ぶためにおさえておきたい3つのポイントについて解説していきます。
現在の経営状況を分析する
客観的な視点から自社の経営状況を把握しておくことで、コスト・広さ・レイアウト・設備といった点で、必要性と適性のバランスがとれたオフィスをデザインすることができます。従業員数(常勤とハイブリッド、フルリモートの割合も含む)や部署構成、業務内容、自社の財務状況など、現場視点と経営視点の双方から「働きやすいオフィス」を考えていくとよいでしょう。加えて、今後増員や事業拡大などが予定される場合は、柔軟性・拡張性にも考慮したオフィス選びが必要となってきます。
長期的な事業計画やビジョンを明確にする
これまで触れてきたように、経営状況や事業規模が変化する度に頻繁にオフィス移転を繰り返すことは、コスト的にも従業員のメンタル的にもプラスに働くことはありません。そのため、オフィス選びの際には、少なくとも5年〜10年後の事業展開を見据えて、どのようなオフィス環境が適しているかを考えることが大切です。
例えば、オフィスを構えるエリアは、企業イメージに影響を与えます。IT企業であれば、渋谷や六本木など、先進的なイメージのエリアを選ぶことが考えられます。一方で、伝統的な企業であれば、銀座や日本橋など、格式高いイメージのエリアを選ぶことも考えられます。長期的な視点で、企業のブランドイメージに合ったエリアを選ぶこともオフィス選びの重要なポイントとなります。
リスクとリターンを比較検討する
自社ビルでも賃貸オフィスでも、どちらを選んでも多少のリスクは生じてしまうため、それぞれのリスクに対するリターンを慎重に比較検討することが、オフィス選びに失敗しないポイントです。先述のメリット・デメリットを自社のケースに当てはめてみて、想定し得るリスクとリターンを総合的に判断したうえで、適したオフィスを選ぶとよいでしょう。その際、財務状況などの内部要因だけでなく、不動産市場の動向や金利変動などの外部要因も考慮することを忘れてはいけません。
未来を見据えたオフィス戦略がVUCA時代に成長し続ける鍵となる

オフィスビルを取り巻く環境は、コロナ禍以降刻々と変化しており、自社ビルと賃貸オフィスそれぞれにおいて、これまでの課題点を克服し新たな価値提供を図る動きが活発化しています。「オフィス」の定義や役割の多様化に伴い、オフィスデザインの選択肢が増している今だからこそ、自社のオフィスにとって何が必要なのか、どのような環境が適しているのかを明確に理解しておかなければなりません。そのうえで、今後の経済や社会の変化を見据えた戦略的なオフィスづくりを行うことが、VUCA時代の中でも成長を続けられる企業力を育む鍵となるはずです。