近年、多くの日本企業が生産性向上を経営課題としてあげており、そのための職場環境や労働環境の整備に注目が集まっています。
その背景には、先進7カ国の中で、日本の労働生産性が最下位にランキングされている状態が、1970年代以降ずっと続いていることも大きく影響しているのではないでしょうか。
人口減少に伴う国内経済の縮小が危惧される中、国内企業は、グローバル市場における海外勢との競争を余儀なくされるようになっているのです。
そのような機運の高まりを受け、本記事では、生産性向上のためにオフィスデザインに取り入れるべき具体的なポイントについて、海外事例を交えて解説していきます。
生産性向上のためにオフィスデザインが重要視される理由
良好で快適なオフィス環境は、そこで働く従業員に対して、様々なポジティブな影響を及ぼし、結果的に個人と組織の生産性向上に貢献します。
ここでは、オフィス環境の改善によって【個人と組織に対して生まれる、3つの代表的な影響】を紹介します。
業務の効率化
オフィス環境の最適化は、そこで働く従業員の日々の業務の効率化に大きく貢献します。
業務で必要な資料や備品の入ったキャビネットの位置一つとっても、その位置によっては、不要な移動時間が発生してしまい、大きく生産性を低下させてしまうことにつながります。
また、組織内のデスクのレイアウトも、業務中の報連相や承認作業などの業務フローが考慮されていなければ、ここでも不要な移動時間が発生するでしょう。
加えて、移動時間のような物理的なアクセスの利便性はもちろん、使いたい資料がすぐに閲覧できる、必要な書類をすぐにクラウドから引き出すことができるなど、情報やツールへのアクセスの利便性という点も、改善により仕事を効率的に進めることができます。
創造性の向上
AIや様々なデジタル技術の進化が著しい近年では、定型的なルーティンワークの担い手が人間から機械へと移り変わっていることを背景に、人間にはよりクリエイティブな仕事が求められるようになっています。
そのため、国内外のスタートアップ企業を中心に、創造性のスイッチを入れるような仕掛けを、オフィスに設けるといった取り組みが戦略的に行われている事例もよく見られるようになりました。
面白いゲームのアイディアが浮かんできそうな、テーマパークのようなオフィスや、洗練された思考とアウトプットが期待できそうなミニマルデザインのオフィスなど、オフィスデザインは、そこで働く人の創造性に大きな影響を及ぼします。
ストレスの軽減
職場でのストレスは、従業員のパフォーマンスを低下させる大きな要因として、世界各国で問題視されています。
アメリカのソフトウェア開発会社Wrikeによる調査では、調査に応じた日本国内の会社員のうち62%が、職場で何らかのストレスを感じていると回答しています。
また同調査で「職場でストレスを感じている」と回答した人のうちの約3割が、働き方が「全く効率的でない」と感じており、業務が効率的に進まない職場環境が、大きなストレスを与えていることが浮き彫りとなっています。
加えてストレスの原因に関する質問に対しては、2位に「コミュニケーションが足りていない」ことがランクインしており、社内コミュニケーションが従業員のメンタルに及ぼす影響力の大きさも明らかとなっています。
このような、業務の効率化や社内コミュニケーションの活性化が促進できる環境は、物理的に構築できる部分が多く、レイアウトやデザインに工夫をこらすことで、従業員のストレスの種を最小化することが可能なのです。
日本と海外のオフィスデザインの特徴
近年、海外企業のオフィスデザインと、そこで働く従業員のメンタルヘルスやパフォーマンスとの関係性について注目される機会が増えたことで、日本国内の企業でも、海外のオフィスのアイデアを取り入れようという動きは活発化しています。
日本と海外のオフィスデザインには、会社のあり方や働き方に対する根本的な意識の違いが明確に表れています。
ここからは、日本と海外のオフィスデザイン間にある大きな違いについて、解説していきます。
全体主義・年功序列型オフィスの日本
日本のオフィスデザインは、組織や会社の中の「調和」を重んじた全体主義の考え方をもとに構成されてきたという点が大きな特徴です。
日本の会社における従業員は、組織や会社の所属メンバーの一員という意識が強いため、団体の秩序を守ることが、組織運営・会社経営の根幹にあります。
全体主義の考え方が大きく表れている代表的なオフィスデザインが、日本特有の「島型」レイアウトです。
同じ部署や課ごとに、メンバーが集まって仕事をすることで、報・連・相といった組織内でのコミュニケーションを円滑に行うことができます。
加えて、島型オフィスは、年功序列のピラミッド型の組織構造がレイアウトに反映されているため、その島を見れば、部長、課長、主任、リーダーなど、役職の序列やパワーバランスを一目で把握することができるというメリットがあります。
一方で島型オフィスは、その島のメンバー内のみで情報のやり取りが完結されてしまうことが多く、情報が全社で共有されず、閉鎖的・排他的な雰囲気を生み出す原因となりやすいという側面もあります。
また、いつでも身近に上司や同僚の視線を感じながら働かなければならないため、集中の妨げになるという側面もあり、近年のプライバシー尊重や個人の生産性向上という意識の高まりに対しては、多くの改善を求められるオフィスデザインであると言えます。
個人主義・成果主義型オフィスの海外
海外のオフィスデザインは、そこで働く一人一人が集中して仕事ができるよう、オフィス内が明確な目的ごとにエリア分けされている点が、日本との大きな違いです。
そこには、個人の意思や権利、能力を尊重する考え方が一般的に浸透している欧米ならではの個人主義の考え方が反映されており、組織単位ではなく、個人単位で生産性の最大化を図ると言う視点があります。
従業員には、一人一人に個人デスクが与えられ、座席の周りはパーテーションで区切られ、その中のレイアウトやインテリアは、個々が心地よい環境にアレンジしてもらってかまわないようになっています。
個人単位で仕切られることで、社内のコミュニケーションが不足するのではという懸念に対しては、基本的に対面でのコミュニケーションを重要視していないため、オンラインで完結します。
業務連絡には、日常的にチャットツールやメッセージアプリを使用しながら、執務エリアとは別に設けられたフリースペースやリフレッシュルームで、同僚と息抜きをしたり、気軽な1on1を行ったりすることで、メリハリをつけて仕事を進めることができるのです。
このように、個人のパフォーマンスを重視したオフィスデザインは、勤続年数や年齢にかかわらず、仕事の成果によってポジションが決定する成果主義な評価制度が、大きく影響しています。
日本の個人主義・年功序列型の企業文化と島型レイアウトが親和性が高いように、海外の、個人主義・成果主義型の企業文化には、「個」を尊重したオフィスデザインがフィットするのです。
生産性を左右するオフィスデザインの7つのポイント
アメリカの大手建設会社ゲンスラーの行った調査では、より良い職場環境で働くことで、生産性が21%向上すると発表しています。
同調査では、調査を行った会社員の90%以上が、職場環境の質が仕事に対する気分や態度に影響を与えると答えており、89%の会社員が、仕事の満足度において職場環境の質は非常に重要であると考えていることが明らかになっています。
けれども、生産性向上を実現するためのオフィスデザインとは、具体的にどのようなことから着手すればよいのでしょうか。
ここからは、【快適なオフィスデザインに必要な7つの要素】ごとに、生産性を高めるためのポイントを解説していきます。
照明
米インテリアデザイン協会が実施した調査では、68%の従業員が職場の照明に不満を持っていると回答しており、職場の照明が「明るすぎる」または「強すぎる」ことが原因の大半を占めています。
光は、人間の心身に対し、様々な影響を与えます。
例えば、冬場の日照時間が少なくなるヨーロッパでは、体内のビタミンDレベルが低下し、うつ病や免疫システムが低下することで、欠勤率が高くなることが長らく問題視されていることはよく知られています。
自然光は人間の健康と生産性に対し、非常に有効に働くため、オフィスに自然光をたくさん取り入れることで、従業員のメンタルは穏やかに保たれ、前向きにクリエイティブな仕事に取り組めるようになります。
空調
オフィス内の空気が汚れていたり、換気の質が低かったりすると、従業員の生産性とやる気が大きく低下してしまいます。
ハーバード大学の研究チームは、異なる換気の質のオフィス内でどのように認知能力に変化が見られるかという実験を行いました。
その結果、平均的なオフィス環境よりも換気の質がよく、室内の二酸化炭素とオフィス機器などからの排出空気量が少ないオフィスにおいては、認知能力が61%向上することがわかっています。
定期的なエアダクトの清掃やこまめな換気を行う他に、多くの酸素を供給する観葉植物などを置いてオフィスの緑化を行うことで、オフィス内の空気の質を高めることができます。
色
オフィスの壁の色は、従業員のエネルギーレベルと生産性に大きな影響を及ぼす可能性が高い要素です。
テキサス大学の研究では、女性は白やベージュ、グレーのオフィスでうつ病が誘発されやすくなり、男性は紫やオレンジのオフィスでは悲しみを感じやすくなるという実験結果を発表しています。
オフィスの壁に最適と考えられる色としては、青や緑といった波長レベルが低い色があげられ、青は生産性に、緑は創造性に関連する色として、多くの海外企業がオフィスデザインに取り入れています。
一方で、黄色は楽観主義を、赤は警戒心やパニックを助長するとされていることから、採用には検討が必要でしょう。
室温
温度調整は、従業員の生産性向上において、効果的かつ着手しやすい方法の一つです。
快適に仕事に集中できる最適温度は、個人差があるものの、極端に暑すぎても寒すぎても、従業員のパフォーマンスは著しく低下してしまいます。
米コーネル大学の調査によると、オフィスの温度が20度から25度に上昇すると、タイピングエラーが44%減少し、タイピング出力は150%向上したという結果が出ています。
最適な温度帯に関しては、様々な意見があるものの、一般的には22〜26度の範囲内で、清潔な空気が十分に循環している環境が最適と考えられています。
音
ノイズが多すぎる環境は、人に甚大なる健康被害を及ぼす可能性が高く、その影響の大きさは大気汚染に次ぐレベルです。
イギリス国内を中心に様々なオフィスの内装を手がけるOscar acoustics社による調査では、65%の従業員が、騒がしい職場では仕事を正確かつスケジュール通りにこなすことができないと答えています。
ここで、「当社のオフィスは、問題視するほど騒がしくない」と考える方は少なくないでしょう。
しかし、イギリスにおいて従業員への健康被害防止のために設けられているオフィス内の最大騒音レベルは87dBと、電話の呼び出し音より少し大きい程度の音です。
特にオープンスペース型オフィスでは、人々の会話やキーボード、電話、プリンターの音などによる不協和音が増強されるため、そのような騒音によるストレスの軽減を考慮することも必要とされています。
プライベート空間
従業員が、高い集中力や創造性を発揮しながら仕事を進めるためには、個人のプライバシーが守られるオフィス環境を整備することが重要です。
様々なノイズ(騒音)はもちろん、視界に余計なものが映り込んでしまうことは、思考の妨げとなり、スムーズに仕事が進められなくなるため、結果的に仕事に対する満足度が大幅に低下してしまいます。
間仕切りのないオープンプラン型オフィスは、昨今の日本における一つのオフィスデザインとしても人気の高いものです。
しかし各国の調査で、生産性向上においては、オープンプラン型よりもパーテーションなどで区切られた個別空間を設けた方が有効であることがわかってきているため、双方のメリットをよく検討したうえで導入を判断することをおすすめします。
最新技術へのアクセス
会社における多くの仕事が、ITまたはデジタル技術を用いて行われることが一般的となった現代において、最新技術に対応したオフィスのアップデートは、生産性向上のために欠かすことはできません。
最新技術へ容易にアクセスできる職場環境は、効率的な業務遂行や、コミュニケーションの活性化が進むことで、従業員の満足度向上にも大きく貢献します。
特に、次々と新しい技術が生まれる時代に育ったミレニアル世代や、デジタルネイティブとされるZ世代の従業員にとっては、アナログで非効率的な方法で時間が浪費されていくと、仕事に対するモチベーションが低下する傾向にあります。
まとめ
本記事では、市場のグローバル化や人材不足などを受け、オフィス環境と従業員の生産性との関係に注目が集まっているニーズを受け、個人の生産性を重要視する海外のオフィスデザインについて解説しました。
オフィス移転は、コストも労力もかかるうえに、失敗したからといって何度もやり直せるものではありません。
そのため、現状の課題をふまえ、オフィス環境の整備によってどのように課題解決につなげていくかは、豊富な移転サポート実績のあるプロフェッショナルの力を借りた方が懸命です。
記事内で紹介した照明や空調など、細かなポイントにも丁寧にお客様のご要望を反映させながら対応しますので、移転をしようか検討中の場合でも、お気軽にご相談ください。