オフィスの立ち上げや移転を考える際、まず新しいオフィスの面積がどのくらい必要なのかを考えなくてはいけません。その際目安となるのが、「従業員1人当たり面積」です。
コロナ以前は固定席制を利用している企業が多く人数×「従業員1人当たり面積」で考えていました。しかし、今はリモートワークやフリーアドレスの導入により従来の「人」から求める面積ではなく「席」という考え方が主流になっています。こちらでは「席」で考えるとはどういうことなのかを解説します。
大手不動産会社がかつて推奨していた考え方「1人当たり面積」
かつて、大手不動産が推奨していた「1人当たりのオフィス面積」とは?そしてそれは、何坪くらいだったのでしょうか。また、どのように「1人当たり面積」は考えられていたのでしょうか。
コロナ以前、2019年の1人当たり面積は「3.71坪」
2019年4月時点の各企業テナントの賃借面積と利用人数を集計し、1人当たりのオフィス面積を計算した結果、中央値は3.71坪だったそうです。2008年からの1人当たりオフィス面積の推移を見てみると、2011年以降は減少を続け、2016年から2018年にかけては増加しました。しかし、2019年は3.71坪と前年度から大きく減少したそうです。
参照:ザイマックス不動産総合研究所 1人あたりオフィス面積調査
事務所衛生基準規則で決められた気積
安全衛生情報センター「事務所衛生基準規則」では、健康と安全確保のため、従業員一人当たりの気積を規定しています。気積とは、床面積×高さのことで、オフィスの空間を表すものです。
規則では、オフィス(労働者が常時就業する室)の気積を一人当たり最低10立方メートル確保するよう定めています。(※床面から4mを超える高さの空間を除く。)
不動産会社や、オフィス関連のメーカーを主流にコロナ以前は一人当たり2~4坪が必要とされていました。
オフィス推進賞(2021年)を受賞した企業の1人当たり面積は
2021年に日経ニューオフィス賞の推進賞を獲得したオフィス10社の1人当たり面積を調べると、平均は3.78坪となりました。(極端に広いものを除く)
参照:ニューオフィス推進協会 日経ニューオフィス賞 受賞オフィス紹介
コロナにより変化したオフィス面積の考え方
しかし、コロナが長期化し、各社ウィズコロナのオフィスの在り方を模索するようになった結果、「オフィスの最適化」を図るようになりました。その「オフィスの最適化」のための一つとして、オフィス面積の考え方にも変化がうまれたのです。
オフィスの最適化を図る「出社率」の概念
コロナ前は「人」を基準にオフィスの面積を考えていましたが、今は「席」で適正な面積を考えるようになっています。
コロナ前は固定席が主流でオフィスには一人当たり2~4坪ほど必要だという考え方が主流でした。
しかしリモートワークが定着し、全員分の席を用意しておく必要もなくなり、コミュニケーションなどの観点からもフリーアドレスを導入する企業が増えました。
それにより、従来のように単純に「人数」で計算するのではなく、必要な「席数」で考えるようになりました。オフィスを利用する人数×出社率×余剰×一人当たりの面積という考え方です。
変動する出社率を考慮するため、オフィスの使い方や目的を再定義する必要があり、オフィス戦略が難解なものになってきているともいえます。
出社率を加味した1人あたりオフィス面積の推移
ザイマックス総研の「1人あたりオフィス面積調査(2022年)」によると、2021年から、従来のオフィス利用人数に代わって、「在籍人数」と「出社人数」を調査し、それぞれの1人あたりオフィス面積を算出する形になっています。
働き方の変化に合わせ、「出社率」といった新たな要素も考慮して、従来のオフィス利用者1人あたりオフィス面積ではなく、「<在籍>1人あたりオフィス面積」および「<出社>1人あたりオフィス面積」として考えるという手法です。
この考え方で算出した新たな一人当たりオフィス面積の推移を見てみましょう。
この調査結果から、<出社>1人あたりオフィス面積と<在籍>1人あたりオフィス面積に大きな差があることが分かります。
従来の在籍人数に基づいて整備されたオフィスでは出社率の低下に伴いオフィススペースに余剰が生じている可能性があることが考えられます。
業種による、1人当たり面積の違い
1人当たり面積は、業種によっても考慮すべき範囲が変わってきます。広い面積が必要な業種と、狭い面積でも対応できる業種があるのです。
広い面積が必要な業種
銀行や不動産会社など、来客が多いオフィスや、同向式レイアウトを採用しているオフィスでは基本的に広い面積がなくてはいけません。来客用のスペース以外にも、広い執務スペースを確保しなくてはならないからです。同向式レイアウトの場合、対向式やフリーアドレス式よりも、1人当たりに必要な面積が広くなります。
例えば、「金融業・保険業」や「学術研究、専門・技術サービス業」は、それぞれ4.36坪、4.41坪など、広めの面積が確保されています。また、同じように1人当たりのオフィス面積が広い業種に「製造業」がありますが、この場合は製品や原材料の保管場所等のスペースが必要なため、1人当たりのオフィス面積を計算すると広くなる傾向にあり、実際に余裕を持った間取りかどうかとは別問題になってきます。
さらに、エンジニアやクリエイティブ系の職種が多く在籍している場合、高スペックなパソコンが必要です。スペックの高いパソコンは大きさも大きくなりますので、広いスペースが必要不可欠となり、このような業種もやはり1人当たりのオフィス面積が広くなる傾向にあります。
狭い面積でも対応できる業種
逆に、営業・企画・会計部門など、対向式やフリーアドレス式のレイアウトを採用しやすい業種では、1人当たりの面積が狭くても問題ありません。とくに4坪より狭い企業が多い業種は「情報通信業」で、3.36坪程度となっています。情報通信業では業務の効率化が進んでいるため、デスクや資料、商品などが省スペース化され、4坪より狭くても業務に差し支えないのです。
例えば、フリーアドレス式を導入する場合は、全従業員分の席を確保する必要がありません。ですから、1人当たりで割ると結果的に狭い面積になるオフィスでも十分対応できるのです。フレックス制や在宅勤務制度を採用している場合も、同様にその活用度合いに応じて1人当たりの面積が狭くても十分対応できます。
ただし、この場合は出勤した従業員が座りきれないなどの事態に陥らないよう、オフィスを利用する従業員の人数を十分に考慮しましょう。無駄は省きながらも、最大限スペースを効率よく利用することが大切です。
1人当たり面積の広さと狭さによるメリット・デメリット
最後に、1人当たり面積が広いことや狭いことによってどのようなメリット・デメリットがあるのか見ていきましょう。
広い面積によるメリット・デメリット
広い面積のメリット
圧迫感のない開放的なオフィス空間
多様な人材の確保
安全性の点でも安心感がある
広い面積のデメリット
賃料や光熱費など維持コストがかさむ
デッドスペースが与える閑散とした雰囲気
コミュニケーションがとりにくい
狭い面積によるメリット・デメリット
狭い面積のメリット
賃料や光熱費など、コストを低く抑えられる
オフィスがコンパクトにまとまるので、社員の動線が効率化される
オフィス内の移動時間が短縮される
従業員どうしの距離が近く、コミュニケーションを取りやすい
狭い面積のデメリット
十分な作業スペースを確保できないリスクがある
圧迫感や閉塞感でストレスを感じやすくなる
周囲の動きや音が気になって、業務に集中できない可能性がある
まとめ
オフィスの従業員1人当たりの面積は約2.5〜4.5坪くらいが妥当で、とくに4坪弱くらいの面積のオフィスが多いです。しかし、1人当たりに必要な面積は業種やレイアウト、働き方によっても大きく変わりますので、自社にあう最適なオフィススペースをよく検討しましょう。