自社の事業成長や変化に適応したオフィスへの移転は、企業のさらなる発展にとって、非常に重要なプロセスです。
また近年では、オフィス自体が企業のブランディングチャネルとして活用されるケースも増え、どのようなオフィスで企業活動を展開しているかが、企業イメージに与える影響力も増大しています。
とりわけ、企業のSDGsに対する取り組みが重要視される昨今においては、オフィス移転に際しても「持続可能性」が求められ、オフィス家具の廃棄問題にも注目が集まっています。
本記事では、経営者や総務担当者が頭を悩ませる、オフィス移転時の廃棄家具問題を解消し、SDGsへの取り組みの一環となるオフィス移転の進め方について解説していきます。
オフィス移転にはコストがかかる
オフィス移転は、様々な点においてコストがかかる、企業にとっての一大イベントです。
「できるだけ費用を抑えて、オフィスを移転させたい」
「通常業務に支障が出ないよう、スピーディーに移転作業を完了させたい」
オフィス移転計画が稼働し始めた時、このような気持ちを抱えている経営者や総務担当者の方は少なくないでしょう。
ここではまず、オフィス移転時にどのようなコストが発生し、企業が負担する必要があるかを確認するため、注目すべき3つのコストについて解説していきます。
コスト1. 不用品の廃棄・処理費用
オフィスの移転に際しては、移転のタイミングを活用して、オフィス家具をはじめとするオフィス用品・備品を一新するケースが多く見られます。
現在広く普及している、金属加工が施されていたり、ガラスやプラスチックの割合が高かったりするオフィス家具は、粗大ゴミではなく、産業廃棄物に分類されるため、多くの場合、専門業者に処分を依頼して廃棄してもらいます。
廃棄費用は、不用品の種類や状態・品数などの条件が重なると非常に高額になるケースも多く、見積額と実際の請求額が変わってしまうことも珍しくはありません。
基本的には、廃棄する不用品の種類ごとに単価が設定されており、そこに廃棄する総数をかけて計算しますが、作業時間や搬出トラックに制限がある場合、さらなる追加料金が発生することが考えられます。
不用品の廃棄・処理費用の目安
代表的なオフィス家具・オフィス用品の廃棄費用の目安は下記の通りです。
会議テーブル:9,000円〜
オフィスデスク:2,500円〜
オフィスチェア:3,000円〜
本棚:2,500円〜
オンデマンドプリンター:50,000円〜
A2コピー機(フィニッシャー付き):28,000円〜
現在のオフィスが広く、在籍する社員数が多いほど、処分すべき品数が増えるため、企業規模が大きくなるほど、オフィス移転に際する不要な家具類の廃棄は、自社に大きな負担となってのしかかってしまうのです。
コスト2. 人件費
オフィスを移転するためには、様々な契約や手続きが発生します。
不用品の選別から業者の手配や打ち合わせ、入居先オフィスのレイアウト決めなど、移転前から移転後にかけて、担当者がやるべきことは煩雑かつ莫大です。
そのため、多くの企業では、総務部門内でプロジェクトチームが発足し、チームで準備を進めていきます。
しかし、多くの場合、担当者は通常業務と同時進行で、移転準備を進めていかなければならないため、移転担当者には多くの業務負荷がかかり、残業が発生しやすくなります。
また、オフィス家具などの搬出入の立ち会いが、週末や夜間になることもあるため、ここでも残業代や休日出勤手当などの新たな費用が発生するでしょう。
このように、移転に伴い発生した様々な業務や対応のために、企業は多くの人件費を負う必要が出てくるのです。
コスト3. 環境負荷
先述の通り、不用品となったオフィス家具のほとんどは、産業廃棄物として処分されますが、産業廃棄物の焼却処理では、地球環境に深刻なダメージを与える温室効果ガスやダイオキシンが排出されます。
温室効果ガスは、地球温暖化の原因となり、各地で異常気象や生態系の変化などによる様々な被害をもたらします。
またダイオキシンは、焼却施設から空中に排出された後、地上に落ちてきて土壌や水を汚染し、そこに暮らす魚介類などを介して、人の体内に蓄積されていく、非常に有毒な発がん性物質です。
加えて、処理費用を浮かすために、産業廃棄物を山中や海、河川などに不法投棄する悪質業者や事業主の増加も社会問題となっており、不法投棄による環境汚染も深刻化しています。
オフィスの移転や拡張、レイアウト変更に伴う、オフィス家具の買い替え・処分を起点に、このような深刻な環境問題が生み出されていることは、これまであまり意識されてこなかった側面と言えます。
オフィス移転時のごみゼロ、循環型オフィスに世界が注目
持続可能な社会の実現に直結する、「サーキュラーエコノミー(循環型経済)」の考え方は、オフィスのあり方にも大きな影響を与え、国内外で「循環型オフィス」に注目が集まっています。
ここからは、世界が注目する循環型オフィスのあり方とその将来性について解説していきます。
循環型オフィスとは?
「循環型オフィス」とは、オフィスの建築や外装・内装、家具やエネルギー調達において、資源を循環的に利用することで、資源の消費や廃棄物の発生を抑制する、環境負荷の少ないオフィスを意味します。
オフィスで使用するエネルギーは、石炭燃料に頼らない、太陽光や風力・水力などの再生可能エネルギーです。
中には、施設内でエネルギーが循環する発電システムを導入しているケースも増えており、オフィスで使用した水も施設内で浄水し使用できる設備を備えたオフィスビルも見られるようになりました。
建築資材は、取り壊された施設で使用されていた資材などの廃棄資材を再利用したり、FSC認証(※1)を取得した木材をを使用することが多く、インテリアや家具にも、サスティナブルでエシカル(※2)な素材やアイテムが用いられている点が特徴です。
(※1)FSC認証:適正に管理された森林から産出した木材、またはそれらを原料とする紙などの製品に表示することで、持続可能な森林の利用と保護を推進する認証制度
(※2)エシカル:英語「Ethical(倫理的な)」の日本語表記。環境保全や社会貢献につながる商品やサービスを利用することを「エシカル消費」と言う
注目される理由は「三方良し」
世界各国の企業が、循環型オフィスへの切り替えを進めている背景には、企業価値の評価基準が変化したことが大きな要因としてあげられます。
SDGsの採択により、持続可能な生産消費システムの構築が、企業が取り組むべき喫緊の課題となり、社会に対して果たすべき役割を全うしているかどうかが、企業評価における重要な指標となったためです。
一昔前の大量生産・大量消費・大量廃棄を前提とした「リニアエコノミー(直線型経済)」型の企業経営を続けることは、自らが資源を枯渇させ、自社の、ひいては社会全体の寿命を縮めることにつながります。
生産・消費・廃棄のいずれにおいても、大きな影響力を持つ企業が変わることで、社会全体の持続可能性が高まり、人々の健康や幸福が守られる「三方良し」の関係性を築くことができるのです。
循環型オフィスの証となる認証制度の影響力も増大傾向
循環型オフィスへの切り替えが企業に及ぼすインパクトが大きくなることを受け、オフィスの環境配慮度合を測る認証制度にも注目が集まっています。
以下の認証は、環境に配慮した循環型オフィスでよく見られる、代表的な評価制度です。
【CASBEE】「建築環境総合性能評価システム」環境に配慮した資機材の使用に加え、景観への配慮や屋内の快適性などの複数の視点から総合的に建設物を評価する制度
【LEED】「Leadership in Energy & Environmental Design」の略称。環境に配慮された建築物「グリーンビルディング」を評価する国際的な認証制度
【LBC】「Living Building Challenge」の略称。アメリカを中心としたグリーンビルディングの国際認証。LEEDよりも建物の再生可能性や環境や社会に与えるインパクトに対する評価基準が厳しい。
【WELL】「Well Building Standrd」の呼称。人々の健康とウェルビーイングを増進する、良い影響を与える建築や街区環境を評価する制度
【B Corp】環境に配慮した事業活動・企業経営を評価する認証制度。企業のあり方全体を評価されるため、厳しい基準にクリアした企業のみが認証を与えられる
このような認証の取得は、主に海外投資家からの評価においてプラスに働くことが多く、ESG投資が拡大している欧米諸国を中心に、企業の判断材料として重要視する投資家も増加傾向にあります。
国内外の事例に学ぶゼロウェイストな循環型オフィス
廃棄物を生み出さない「ゼロウェイスト(Zero Waste)」なオフィスは、循環型オフィスの大きな特徴の1つです。
新オフィスへの移転を機に、循環型オフィスへの切り替えを完了している企業からは、ゼロウェイストで新たにオフィスを構えるうえで参考となるヒントをたくさん見つけることができます。
ここからは、国内外の循環型オフィスを構える4つの企業の取り組みから、廃棄物削減のアイディアを紹介していきます。
CIRCL(オランダ)
オランダでは、2050年までに廃棄物のない完全な循環型経済を実現することを目標に掲げ、2016年から官民の様々な機関と連携した取り組みが進められています。
世界に先駆けて、建築業界にも循環型経済の考えを取り入れ、業界内でも「廃棄物のない」「原材料の使用量を50%削減した」建築デザインに対する意識が高まっています。
中でも、2017年に完成した、オランダ金融大手のABN AMRO(エービーエヌ・アムロ)のオフィス「CIRCL」は、オランダにおける「サーキュラーエコノミー建築の代表」とも言われているオフィスです。
CIRCLの建築には、多くの再利用資材が利用されており、床材に使われている資材は、古い修道院やサッカーのクラブハウスなど、全国15ヶ所で使用されていた廃材を集めたものです。
また、会議室のドアには機械メーカー「フィリップス」のオフィスで使われていたパーツが、オフィス内の天井や壁に取り付けられている断熱材兼防音素材には、市民から回収した古着ジーンズ1万6,000本分の繊維が利用されています。
アップサイクル素材の活用の他に、CIRCLではリース品も活用することで、買い替えによる廃棄物の発生をなくしています。
Google(アメリカ)
2022年にアメリカ・シリコンバレーにて完成したGoogleの新社屋「Google Bay View」の建設は、「サスティナビリティ」をキーワードに新たな建築とオフィスのあり方を提案する大規模プロジェクトとして進められました。
3棟からなる社屋の屋根には、約5万枚のソーラーパネルが敷き詰められ、そこから生み出される電力は全体で7メガワットに迫るとされています。
プロジェクト発足当初から、廃材や厳格な基準をクリアした化学物質といった、サステナブル資材の使用が決定しており、実際に新オフィス建設に使用された木材のうち96%以上を、FSC認証取得木材が占めています。
「Google Bay View」は、先述のグリーンビルディング認証「LEED v4」のプラチナ認証や「LBC」のペタル認証を取得し、「持続可能な建設と運営」というオフィスのあり方を示す同社のバリューを具現化する象徴的な存在となっているのです。
メルカリ(日本)
2022年にメルカリが新たに開設した東京オフィス「Mercari Base Tokyo」では、「使用後に売る」という新たな消費行動を提案し、リユース市場の牽引役となっているメルカリらしい、サステナブルマインドを随所に感じることができます。
待合スペースのベンチは、元々使用していた椅子をアーティストの手でアップサイクルして作成したもので、会議に使用される大テーブルも、元々あったテーブルを塗り替えたものです。
他にも、インテリアにはサステナブルブランドの製品や素材を使用し、家具のコーティングや仕上げにも再生マテリアルを使用しています。
地球環境に配慮したオフィス設計を行うことにより、メルカリでは、そこで働く社員たちの中で、同社の組織の土壌となる「Sustainability」という価値観が育まれていくことを目指しています。
Prairie Architects Inc. (カナダ)
カナダの建設設計事務所「Prairie Architects Inc. 」は、創業以来一貫して環境に配慮した建築設計を行い、新オフィスへの移転に際しても、これまで培われてきたノウハウや企業理念を具現化することを試みています。
LEED基準に基づく建設や改修を強みとしてきた同社では、古い倉庫を改造した新オフィスでももちろん「LEED v4 ID+C」プラチナ認証を取得しています。
オフィスの内装においても、既存の資材を最大限活用しながらリノベーションを進め、結果的に資材の94%を再利用することに成功しています。
オフィス家具では、以前のオフィスで使用していたデスクやチェア、ソファなど中古品を活用したり、中古品を調達することにより、リユース家具が占める割合は61%に達しました。
残りの新しく購入した製品についても、呼吸器へのダメージが懸念されるVOC(揮発性有機化合物)の含有量が低い素材やリサイクル素材を使用した、環境負荷の低いものを採用しています。
廃棄家具を生まないオフィスの移転のアイディア3選
新しいオフィスに移転する際に廃棄物を生み出さないゼロウェイストなオフィス移転を実現するためには、オフィスで使用する家具やオフィスそのものを「循環させる」という意識を持つことが重要です。
ここからは、廃棄家具を生み出さずに環境に配慮したオフィス移転に有効なアイディアを3つ紹介していきます。
サブスクリプションやレンタルサービスを利用する
オフィス家具のサブスクリプションサービスやレンタル、リースサービスの充実により、オフィス用品は購入するより借りた方が、様々なメリットを得ることができるようになりました。
このようなレンタル文化の醸成を後押しし、ゼロウェイストの循環型オフィスにとって強い味方となっているのが「PAAS(Product as a Service:製品のサービス化)」と呼ばれるビジネスモデルです。
従来の製品そのものを販売するのではなく、製品の機能を販売するビジネスモデルを意味するPAASは、電化製品やオフィス用品などの中期的に長持ちする製品との相性がよく、環境負荷の軽減に貢献します。
先述のオランダのCIRCLに使用されているエレベーターも、このPAASを活用したもので、15年に一度の契約更新時には、より環境負荷が低いエレベーターに交換できるという契約となっています。
加えて、使用量に応じて課金される従量課金システムが採用されていることで、社員が極力エレベータを利用せずに階段を利用するようになったことで、社員の健康増進効果も生み出しているのです。
使い捨てからレンタルに切り替えることで、オフィス移転に伴うごみを削減し、環境負荷が軽減され、購入や廃棄の面倒な手続きがなくなるのであれば、利用する方が得策と言えるでしょう。
リユースやアップサイクルに活用する
「所有から利用へ」という消費者意識の変化により、日本のリユース市場は、順調な拡大傾向が続いており、2025年には3兆5,000億円に達すると予測されています。
この流れを受けて、オフィスから排出される家具に対するリユースニーズも高まっていることから、移転時に不要になったオフィス家具は、産業廃棄物ではなくリユース品として売却することをおすすめします。
理由は、売却により、産業廃棄物処理にかかる費用負担や、廃棄処理による環境へのダメージを削減できるうえに、中古品の売却収入を得ることも期待できるためです。
オフィス用品のリユース推進を牽引する動きとしては、大手不動産デベロッパーである三菱地所が新事業として2021年にスタートした、使用済みオフィス家具のリユース販売・リース事業「エコファニ」があげられます。
同社のテナント企業を中心に、オフィス家具の循環システムを構築できていることから、今後はさらに拡大したユーザー間でオフィス用品の循環利用が加速されていくことが期待されています。
移転先に居抜き物件を選ぶ
居抜き物件とは、前の入居者が使った設備や内装を、そのまま次の入居者が引き継ぐ形で使用する物件のことを指します。
オフィス用の居抜き物件の数は近年増加傾向にあり、立地や設備が好条件な物件も多数見られるようになっています。
すでにオフィス家具や電子機器、インターネット回線などが完備の居抜き物件であれば、入居時の引越し作業に費やす労力も費用も時間も格段に抑えることができます。
新たな家具やオフィス機器の選定から購入・設置の手間も省け、内装工事も不要なため、移転に伴う通常業務の中断や遅延といったリスクも最小化でき、スムーズに新しいオフィスで仕事を進めることが可能なのです。
また、そのままの状態で退去することができる居抜き物件では、退去時も最低限の清掃や修復程度の原状回復で済ませられることから、費用や引越し手続きに時間と手間を割かれることもありません。
オフィス内の家具や電子機器は次の入居者に引き継がれるため、退去時の家具の廃棄処分も不要で、移転による環境負荷軽減も実現します。
循環型オフィスで低コストな移転を実現しよう
SDGsの採択によって持続可能な企業経営に注目が集まり、また、新型コロナウイルスの感染拡大によってオフィスの閉鎖や移転が相次ぎ大量のオフィス家具が不要になったことで、地球環境に配慮した循環型オフィスへの関心が高まりを続けています。
オフィスで使用するエネルギーも、家具や社屋に使用される資材も、全て有限であることに直面した今、企業には、これまでの使い捨て文化から脱却し、持続可能なオフィス運営への舵切りが求められています。
当社では、移転時に発生する費用や手間の軽減に加え、廃棄ごみの削減にもつながる、居抜きオフィスを活用したゼロウェイストなオフィス移転を支援しています。
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