オフィスに欠かせない蛍光灯が国際的な規制の対象となり、近い将来には、新規での購入が難しくなり使用できなくなる可能性があります。この動きは単なる照明器具の交換に留まらず、企業の持続可能性やコスト効率を左右する重要な経営判断につながります。
本記事では、蛍光灯がなぜ規制されるのか、いつ・どの照明が使えなくなるのかを解説するとともに、オフィスが今すぐ取り組むべき対策と、LED化がもたらす多様なメリットを分かりやすく紐解いていきます。
オフィスから蛍光灯が消える?規制の背景と内容とは
2023年11月の「水銀に関する水俣条約第5回締約国会議」において、一般照明用の蛍光ランプの製造・輸出入を、2027年末までに段階的に廃止することが決定されました。
一体なぜ、このような決定が下されたのでしょうか。ここからは、規制の背景と想定される影響について解説していきます。
なぜ蛍光灯が規制対象になる?
蛍光灯が規制対象となる最大の理由は、環境と人体への影響が懸念される「水銀」を使用しているためです。蛍光灯は、ガラス管内の水銀蒸気に電気を流すことで光を放ちます。しかし、ランプが破損すると、中に含まれる微量の水銀が外部に漏れ出し、環境汚染や健康被害を引き起こすリスクがあります。
この問題を解決するため、2013年に「水銀に関する水俣条約」が国連で採択されました。この国際的な条約は、水銀による汚染を防止することを目的としており、蛍光灯もその規制対象の一つとされました。
2023年の締約国会議では、一般照明用蛍光灯の製造や輸出入を2027年末までに禁止することが決定され、この決定を受けて日本でも2026年1月以降、段階的に製造と輸出入が規制されるという動きが始まったのです。
日常生活で使われている一般的な蛍光灯は、ほぼすべてが規制の対象になります。しかし、非常灯や医療機器などの特殊な用途のランプは、今回適用外とされています。このことから、現在オフィスで日常的に使用している照明については、いずれ全撤去・交換が避けられないことが分かります。
参考:経済産業省「蛍光灯からLED照明への切り替えはお済みですか?」
参考:経済産業省「「水銀に関する水俣条約第5回締約国会議」の結果について」
いつ・どの照明が使えなくなる?
突然このニュースを耳にした方は、「いつまでに交換しなければいけないの?」と不安を抱くかもしれません。経済産業省によると、2026年以降、蛍光灯の種類に応じて段階的に製造・輸出入の規制が開始されます。
そして、直管形や環形、コンパクト形といった蛍光灯に加え、電球形蛍光ランプも2027年末にはすべて製造が終了する予定です。規制後も保有している蛍光灯を使うことは可能ですが、交換用ランプの確保が難しくなるため、長期的に使用を続けることは現実的ではありません。
さらに、照明器具自体に寿命がある点にも注意が必要です。日本照明工業会が設けたガイドラインでは、「設置後10年」を適正交換時期と定めています。古い器具を使い続けると発火や破損のリスクも高まることから、規制のタイミングに合わせて器具ごと新しいものに更新することが推奨されます。
規制のスケジュールは?
規制が開始される時期は、蛍光ランプの種類によって細かく異なります。2025年8月時点で環境省より公表されているスケジュールは以下の通りです。
| 電球形蛍光ランプ | 2026年1月1日から順次禁止。一部の高出力品は2027年から禁止 |
| コンパクト形蛍光ランプ | 2027年1月1日から禁止 |
| 直管形・環形蛍光ランプ | 2028年1月1日から禁止。ただし、ハロりん酸塩を主成分とするものは2027年1月から先行して禁止 |
このように規制の時期が種別によって異なるため、自社で使用している照明の品番を事前に確認し、計画的な入れ替えを検討することをおすすめします。こうしたスケジュールをふまえると早めに在庫の購入を抑え、予算や工事の準備を進めることが賢明といえるでしょう。
参考:環境省「一般照明用の蛍光ランプの規制について」
オフィス照明のLED化がもたらす3つのメリット
今回の規制を受けて、LED照明への切り替えを本格的に進める企業も少なくないでしょう。LEDへの全面切り替えは有効な規制対策である以上に、企業経営にとって多角的なメリットをもたらします。ここからは、オフィス照明のLED化がもたらす3つのメリットについて解説していきます。
メリット1. コスト削減
LED照明への切り替えによる最大のメリットは、圧倒的な省エネ性能によるコスト削減です。経済産業省は、蛍光灯からLEDへの切り替えによって電力消費を抑え、電気代を大幅に節約できると示しています。
また、LEDは蛍光灯よりも寿命がはるかに長いため、交換の手間やコストが大幅に削減される点も大きな利点です。環境省によると、LEDランプは一般電球と比べて約85%の省エネ効果があり、定格寿命が約40,000時間と長寿命であることが紹介されています。購入価格は高いものの、消費電力が少ないためトータルコストは安くなるとされており、長時間稼働するオフィス照明には特に適しています。
参考:環境省「LED照明って、何がお得なの?」
メリット2. 企業価値向上
環境経営やESG投資が重視される現代において、オフィス照明のLED化は企業の重要な取り組みとなります。LEDは水銀を使用せずCO2排出量も抑えられるため、企業の環境負荷低減に大きく貢献します。
また、水銀を含まないLEDを選択することは、廃棄物処理に伴うリスクを減らし、脱炭素社会の実現を目指す企業の姿勢を社内外に示すことにもつながります。省エネ性能の高さから、電力消費に伴うCO2排出も抑えられるため、環境配慮型企業として投資家や顧客の評価向上が期待できます。
メリット3. 様々な付加価値
オフィス照明のLED化は、コスト削減や環境貢献以外にも多くの付加価値を企業にもたらします。
まず、オフィス担当者の負担軽減です。LEDは蛍光灯に比べて交換頻度が低い分、交換作業に伴う工数を削減でき、日々の業務負担を大きく減らすことができます。
さらに、オフィス環境の改善も期待できます。LEDには紫外線や赤外線がほとんど含まれないため、書類や備品の劣化を防ぐといった利点があります。また、調光機能や色温度調整機能を持つLED照明を導入すれば、業務内容や時間帯に合わせて最適な照明環境を作り出すことができ、従業員の集中力や生産性向上にもつながるでしょう。
スムーズなLED化を実現する4つのステップ
LED照明は企業に多大なメリットをもたらしますが、オフィス全体の切り替えは大きなプロジェクトです。ここからは、ここでは、社内照明のLED化をスムーズに成功させるために、各プロセスで押さえるべき重要なポイントを解説します。
1.現状を把握する
設備の更新や予算計画に余裕をもって取り組むためには、早い段階で現状をきちんと把握し、計画に落とし込むことが重要です。まずは、現在使用している照明器具の品番を確認し、取替対象や器具の寿命を確認します。
2.改修計画を作成する
LED器具への改修計画を作成します。直管形や環形ランプをそのままLEDに取り替える場合、配線や取り付け方法が異なることがあります。そのため、メーカーの指示書や取り扱い説明書をよく読み、必要に応じて電気工事士や専門業者に相談しましょう。
3.予算・補助金を確認する
オフィス全体の照明をLED化するには、多額の初期費用がかかります。国または地方自治体によっては、LED化を支援する補助金制度を設けている場合があるため、事前に確認しておきましょう。
4.社内に周知する
LED化の目的やメリットを従業員に共有することで、節電意識を高め、導入効果を一層引き出すことができます。新しい照明への切り替えを単なる工事としてではなく、企業全体の「持続可能性への取り組み」として位置づけ、従業員を巻き込むようにしましょう。
余裕をもったLED化計画でオフィス環境をアップデートしよう
蛍光灯の規制は、オフィス照明のLED化を後押しするだけでなく、企業の持続可能性を高めるうえでも重要な機会となります。省エネやコスト削減、そして環境負荷低減といった多角的なメリットを持つLED照明への切り替えは、未来に向けた賢い投資といえるでしょう。この転換期をチャンスと捉え計画的にLED化を進めることで、企業はさらなる成長と社会貢献を実現することができます。
「職場の照明、最近暗くなった気がする」「蛍光灯をそろそろ交換しないと…」
そう考えている方は、今こそ照明戦略を見直す絶好の機会かもしれません。