“はたらく場所の最適化” を目指す株式会社HATARABAは2024年で設立20周年を迎えました。本企画では、周年を迎える企業の代表をお迎えし、これまでの歩みや、これから目指していく未来について対談形式でお話を伺っています。
第1回目は、国内最大級のビジネスチャットを運営する株式会社kubellのCEO 山本正喜さんをお迎えしました。同社は20周年を機に、社名を「Chatwork株式会社」から「株式会社kubell」に変更し話題になっています。
なぜ、このタイミングでリブランディングに踏み切ったのか。どのような思いが込められているのか。弊社代表 森村が、その真意に迫ります。
社名変更に対する戸惑いと期待
――「kubell」も「HATARABA」も、創業20周年を迎えたタイミングで社名を変更しました。その背景を教えてください。
山本:今回の変更には、社名を事業展開にフィットさせたいという意図があります。kubellは中小企業の生産性向上の支援を目指しています。例えば、ビジネスチャット経由で、経理や労務などノンコアな業務を私たちがお受けして、内部的にSaaSやAIを活用して効率化するBPaaS事業をもっと伸ばしたいと考えているんです。
ところが「Chatwork」の知名度が上がりすぎてしまった。すると、BPaaSについて説明する際に、お客様から「なぜビジネスチャットの会社がそんなことをするの?」と疑問に思われることが増えました。さらに、採用やさまざまなアライアンスを組む際にも説明コストが高くなってしまいました。今後、BPaaSというカテゴリーを広げていくときに、社名を変更してからチャレンジすることで社内外にコミットメントを示すことが、社名変更にこめた狙いのひとつになっています。
森村:私たちも、「株式会社オフィスバンク」というオフィス仲介専門の会社として2004年に立ち上がりました。しかし最近、オフィス以外でのはたらく場の広がりや、今後オフィス以外での事業展開を考えた時に社名を変更する必要性を感じました。そこで“はたらく場所を、もっとよくする。”という思いをこめて、「HATARABA」へ社名変更をしました。当社にとって社名変更は初めてのことだったので、新鮮な気持ちになりました。
――社名変更に伴う混乱はありませんでしたか。
森村:クライアントの間では、「株式会社オフィスバンク」という社名は知れ渡っていたので、変更後、「HATARABA」と名乗っても「どちらさま?」と聞かれることもしばしばありましたね(笑)。
山本:私たちはプロダクトの名前は「Chatwork」のままなので、ユーザーにとっては何か変更があったというわけではなく、そこまで大きなインパクトは与えてはいなかったと思っています。
森村:「kubell」という社名は誰が考えたものですか。
山本:「Chatwork」という名前は私が考えたものですが、今回は敢えて私が新社名を考えないようにしました。社名変更のチームを作り、その中から私が選びました。「kubell」は「薪をくべる」という言葉から生まれています。働く人の心に宿る火に薪をくべる存在になりたい、働く人を応援したいという気持ちがこもっています。
森村:プロジェクトチームを作るのは、良いですよね。
山本:そうですね。“働くをもっと楽しく、創造的に”というミッションを体現するような社名にするということがお題でした。まず、ミッションを連想するようなエピソードを社員にアンケートを取り、出てきたキーワードを抽出しワーディングを整え、それを掛け合わせて社名を作るという方法を取りました。基本的にはボトムアップでやりながらも、最後はボード陣が決めました。
私たちは、ボトムアップとトップダウンの両方で物事を決めることが大事だと思っています。「投票で決める」という形を取ってしまうとプロの目線は入りづらくなります。ある程度はパブリックコメント的に集めながらも、その中から絞る際にはプロジェクトチームを作って、真剣に議論をしたり、他社の事例や時流のトレンド等も考慮して、という方法が一番良いバランスだと考えています。
山本:反対に“専門的なチームや社長だけで決める”となってしまうと、社員が関わったという感覚が無くなってしまいます。自分たちも作ったプロセスに関わっているという感覚を少しでも味わってもらうことを大切にしています。
コロナ禍がひとつの転機に
――両社とも、時を同じくして、2004年に創業したわけですが、この20年間を振り返ってみていかがですか。
山本:そうですね。20年前に、兄弟で学生起業を果たしてから、激動の日々を送ってきました。当時は、“自分たちが働きたいと思うような会社を作る”。売上の規模や成長速度などにこだわりを持たないまま、様々なビジネスを展開していました。上場や社会を変えるといったことも考えていませんでした。
転機になったのは「Chatwork」というプロダクト事業の誕生です。伸び方もすさまじく、熱狂的なファンも出てきました。さらに、ビジネスチャットブームの到来もあり「Chatwork」はさらなる成長を遂げました。
しかし、事業が成長すると私は大きな決断を迫られることになりました。“自分が働きたい会社を作る”というスタンスを変えず、そのポリシーを守るのか、「Chatwork」というチャンスに賭けて会社を大きくするのか、かなり葛藤しました。
そこで人生に幾度とないチャンスだからと腹をくくり、ベンチャーキャピタルから資金調達をするという決断をして、それに合わせて上場するというストーリーまで決めました。
山本:それまでは牧歌的なカルチャーでしたが、はじめて人材紹介会社を使って採用をし、多様な人材を登用。既存社員とのカルチャーの衝突もかなり起きましたね。その過程で兄から私に社長交代がありました。本当に何度も死ぬ思いをしながら2019年に上場を果たしましたが、ホッとしたのもつかの間、2020年にコロナが起ました。
社会は大変でしたが、私たちビジネスチャットの事業としては追い風、しかも突風に巻き込まれました。2020年4月に緊急事態宣言が出されたときは、対応しきれないほどの問い合わせが殺到しました。
森村:おっしゃる通り、まさに激動の日々ですね。私たちの業界では、オフィスを縮小移転する企業や、移転を見合わせる企業も多く、反対にコロナは逆風になりました。また、リモートで社員のロイヤリティを高めるのはとても難しく、離れていった社員もいました。そこで社員の給料を大幅に見直したり、働き方も一部変えたりしました。結果として離職率は下がりましたし、より優秀な人材が集まるようになりました。ピンチですが、成長の機会が来たな!と思うようにしていますね。
成長しながら顧客課題を解決に導く
――これからの20年間をどのように見据えていらっしゃいますか。
山本:これまでは、ひとつの事業成功を追求してきましたが、これからは社会的インパクトを目指します。ビジネスチャットを基盤に、BPaaSを通じてお客様の経営に深く関わり、社会を変えていくことに注力していきたいです。この決意は、リブランディングにも表れています。
社名変更はカルチャー変革の好機と考え、バリューもアップデートしました。これにより、会社のカルチャーを進化させることを目指しています。
森村:これまでは緩やかに成長してきましたが、今後は成長速度を上げたいです。重要なのは「人」です。AIもありますが、それを使いこなせる“人”がいなければならないので、”人”に成長する機会を提供し続けていきたいです。
また、イノベーションを促進する社内文化も重要だと考えています。変化を恐れず、失敗から学び、成長につなげる文化を築いていきます。
――ありがとうございます。最後に、ステークホルダーの皆さんにメッセージをお願いします。
山本:私たちは新しいフェーズに入りました。ビジネスチャットの会社から、働き方を変えるプラットフォームの会社へと進化します。
少子高齢化が進む中、私たちは労働人口の7割を占める中小企業の生産性向上にフォーカスし、日本全体の生産性を上げる良い循環を作りたいと考えています。
例えば、製造業であれば良いものを作るということになるべく多くの時間を使ってもらって、それ以外のところはチャット経由で私たちにアウトソースしてもらう。AIやITを活用し、やりたい仕事に集中できる社会を目指します。”楽しく働け、生産性も上がる”そういう社会を作るということも、この先の20年でコミットしていきたいです。
森村:コロナ禍で働き方が変わり、オフィスに対する考え方も変わりました。従来は、オフィスの広さも【人数×坪数】で考える企業が多かったですが、今は出社率や働き方、Web会議の定着化など、考えるべき要素が増えてきています。今後は、企業それぞれにとって「最適なオフィスとは何なのか?」を考える必要があります。
私たちHATARABAは、お客様へのヒアリングなどからオフィスの課題を抽出し、お客様がかかえている課題解決のサポートをすることで、企業のはたらく場所をよりよくするお手伝いをしていきたいと考えています。