求人サイト「バイトル」や「はたらこねっと」をはじめとする、人材サービスとDXサービスの提供を通して、労働市場における諸課題を解決し、誰もが働く喜びと幸せを感じられる社会の実現を目指しているディップ株式会社。時給アップ交渉など、これまでの求人媒体の常識を覆すようなキャンペーンなどを行い急拡大中の企業です。
働き方やライフスタイルの在りよう、価値観が多様化する中、2,000名を超える従業員を抱えるディップが取り組むあるプロジェクトを取材しました。
新たなアイデアを生み出す空間、生産性の向上につながるような環境を提供するために行われた「緑化プロジェクト」。取材を通じて、背景から見えてきたのはディップに根付くフィロソフィーとリアルなコミュニケーションでした。(以下:敬称略)
ディップの社名の由来と根付くフィロソフィーとは?
dipの社名は dream idea passionの頭文字
ディップという社名を知らない人はいないと思いますが、改めて事業の概要、お二人の業務範囲についてお聞かせいただけますか?
藤原:ディップ(dip)の社名は「d」「i」「p」「dream(夢)、idea(アイデア)、passion(情熱)」の頭文字となります。
「私たちdipは夢とアイデアと情熱で社会を改善する存在となる」を企業理念に、皆さんがご存じの「バイトル」などの求人サービスや、中堅・中小企業向けDXツール「コボット」などのサービスを提供しています。
私は広報を担当しております。
藤川:私はワークプレイス、オフィス環境整備を担当しています。本社はもちろん、2022年時点で36拠点のオフィス全てを我々のチームで管轄しています。ここ、六本木の本社は2017年の創業20年を節目とし、人が成人をするように「会社も大人」にという意味合いもこめ、重厚感あるオフィスを構築しました。
ユーザーファーストのフィロソフィー
「働く場」やそこで「働く人」に関わっていらっしゃるんですね。働き方改革や、コロナを経てライフスタイルや価値観に大きな変化のある非常に難解な領域ですね。
藤川:そうですね。悩ましく、頭を抱えることも多いのですが、より良いオフィス環境を模索しながら未来へ向けて挑戦できるやりがいのある仕事だと思っています。
ディップが大切にしているフィロソフィーに「ユーザーファースト」というものがあります。この一人ひとりに寄り添う「ユーザーファースト」を追求すべく、我々含め、全社員が行動しています。ディップならではの「人が全て、人が財産」という信念が浸透しているからこそですね。
藤原:確かに非常に難しい領域だと思います。
ただ、当社にはこの「人が全て、人が財産」という信念があるからこそ、非常にスピーディーな経営判断ができると思っています。
直近の話ですと、2022年10月から国が創設した「産後パパ育休制度」と育児休業の分割取得開始 ですが、当社では7月には既に先行導入していました。従業員の働く環境をより良くすることはもちろん、人事制度も社員にとって有益なものは積極的に取り入れるようにしています。
コロナ禍でディップがいち早く実践した施策
一気に全社を方向転換。緊急事態宣言前に一斉にリモートへ
産後パパ育休制度もスピーディに導入されたんですね。従業員数が2,000名を超えると大きな変化、切替が難しいということはないのでしょうか?コロナの初期はいかがでしたか?
藤川:初めての緊急事態宣言は2020年4月に発令されたのですが、ディップではそれ以前の1月には一斉にリモートへ切り替えをし始めました。現在は「コロナ感染拡大防止ガイドライン」を随時更新し、適宜対応しています。
そうだったんですね!それは素早い対応でしたね。PCやネットワークなどのインフラは整っていたのでしょうか?
藤川:いえ、実はその段階ではインフラは整っていませんでした。ただ、かろうじて会社支給のスマホを全社員が持っていたので、走りながら整えたという印象です。これまで基本全員出社だったので、どうやって仕事をしていけばいいのか、一人一人が考えながら意見を出しながら工夫して対応していった感じですね。
そんな状況で一斉に切替して、社員から不満や不安の声はありませんでしたか?特にマインドセットが難しいのではないでしょうか?
藤原:当社は2,000名を超える従業員がいますが、ディップの社員はみなフレキシブルな思考をもっていると思います。そこはやはりフィロソフィーが浸透しているからこそではないでしょうか。その軸がぶれないので、環境が変わっても柔軟に対応しようとそれぞれが考えてくれるのだと思います。
コロナ禍もコロナ後も、必要な支援をユーザーへ
藤原:コロナ禍の2020年以降、コロナに感染された有期雇用労働者のユーザーに経済的支援などを実施しました。
さらに、ワクチンを接種したユーザーに対して、時給アップや特別手当、特別休暇の取得を企業に働きかける「ワクチンインセンティブプロジェクト」を実施するなど、求人サイトとしては異例のアクションだったと思います。
そうだったんですね!コロナ禍では御社も厳しい状況だったと推測しますが、その中で支援されたというのは素晴らしいですね。
藤原:アルバイトの方だけでなく、求人広告を掲載しているお店の方へも対応をしました。一斉臨時休校で出社が困難になる従業員の方が増え、欠員の対応に苦慮されている企業が多くいたんです。
COOが自ら拠点を回り、直接社員の声に耳を傾ける
様々なプロジェクトに対して現場も柔軟に対応されるのですね。社内の信頼関係を育むために何か取り組まれていることがあるのでしょうか?
藤川:元々拠点も多いので、通常業務の中で全体交流をするような仕組みはありました。毎月売上の〆のタイミングで本社の様子を全拠点に配信するなど、会社全体の状況や方向性、経営陣の考えや思いが届くようになっていたので信頼感が生まれていたんだと思います。
あとは定期的にCOOが全国の拠点を回って直接社員と話をする「座談会」をしていますね。そこで吸い上げた社員の生の声を元にして、我々に具体的な改善策を求められることもあります。
先日もある拠点で「オフィスの椅子の座り心地が悪く疲れやすい」という声があったそうです。戻ってきてすぐ「あの拠点の椅子を変えて」と指示があり、直ぐに対応しました。こういったことも社員からするとちゃんと声が届いていて、会社は改善してくれるんだという認識で信頼につながっているのかもしれませんね。
社員の一声から始まった緑化プロジェクト
藤川:実は今回の緑化プロジェクトもこの座談会での社員の一声から始まったんです。役員と社員の座談会がきっかけで「緑化」を本格的に進めることになったのです。
目に見えない緑化の効果をどう図る?大学との共同研究を選んだわけ
これまでの「緑化」はインテリアの一部に過ぎなかった
オフィスに観葉植物があるというのは割と一般的ですよね。新オフィス開設のお祝いとして贈るケースもありますし、プロジェクトを始める前のオフィスはどんな感じだったんですか?
藤川:観葉植物はありましたが、あくまでインテリアのひとつ、オフィスデザインのアクセントのような使い方でした。会議室の角や執務エリアの脇にどんと立派な鉢植えの観葉植物が置いてあるという具合です。
植物があるといいよね、緑があるオフィスは心地いいよね、そういう感覚的なものは多くの人が持っていると思います。私自身も大好きでオフィスだけでなく自宅にもグリーンを置いています。
ただ、緑化に着目して戦略的に活用してみよう、という取り組みははじめてでしたね。
緑化の戦略的プロジェクトはどう進めた?
具体的にどういった形でこのプロジェクトが進行していったのでしょうか?
藤川:先ほどお話したとおり、きっかけは一人の社員からの声です。ちょうど経営サイドからも生産性を向上させたい、創造性を高めたいという話もあった時期でした。
緑化で業務効率が15%ほど改善するという研究を目にしたCEOから、効果的にオフィスにグリーンを導入できないかと打診があったのです。
プロジェクトメンバーは私を含め3人。緑が何となく良いことは全員共通して感じていましたが、これを効果検証、永続的な運用まで含めて結果を出すには、どのように進めるべきか、色々と調べて議論を重ねました。また、せっかくオフィスの緑化を行うなら、何か形に残るものにしたいという話しも出ていました。
文献なども調べていくと、緑化に関しては世界中で様々な研究が成されていて、有益な調査結果がすでに沢山あることがわかりました。緑地環境学や緑地学という学問分野があり、単にグリーンを配置すれば良いということではなく、緑視率は10-15%程度が最も効果的だというようなことも既に分かっていたのです。
緑視率と呼ばれる視野のなかにどれだけ緑があるのかを表す指標があることや、オフィス環境とビジネス心理学の関係性などをはじめて知りましたが、それぞれが非常に興味深い内容ばかりでしたね。
千葉大学との実証実験という進め方
藤川:今回我々が行う緑化プロジェクトを何か結果として形に残したいという議論の中で、役員から一つの実験として専門家と共同研究をして進めるのはどうだろうかというアイデアをもらったのです。
結果、緑化に関する研究の第一人者でこれまでも企業と共同研究実績のある千葉大学へ話を持ち掛けたのです。
オフィスの緑化を行っているようなパートナー会社にも、今のトレンドやどういった商品があるのか、コスト感等も含めていくつか声をかけていました。過去に千葉大学と共に共同研究実績のある会社もおり、色々な巡り合わせが今回の緑化共同研究というプロジェクトに繋がりました。
千葉大学との共同研究を進めるにあたって、どんな話し合いがされたのでしょうか?
藤川:千葉大学は既にいくつかの企業と緑化の共同研究の実績があったので、単にオフィスに観葉植物を置くだけではなく、何か新しい取り組みも行ってみたいという話がありました。
具体的には、植栽の種別による変化はあるのか、試してみたいということでした。
緑化の中に楽しみのある植栽、例えば花を咲かせるものやハーブなど香りがあるものだと、通常の緑化との違いはあるのか?オフィスワーカーがどのように反応するのかを実験してみたいと。 植栽の種別の事までは全く考えていなかったので、確かにおもしろそうだと思ってやってみることにしました。
緑化にもエッセンスを。花やハーブに違いはあるのか?
藤川:実証実験自体は2022年12月末で終わり、今結果がでるのを待っている状況で、楽しみにしています。
藤原:植栽の種別による実証実験は横浜の拠点のみで行ったので、結果次第では全拠点に広めていきたいと思っています。
結果が出ましたら是非また取材させてください!
藤原:宜しくお願いします。結果だけでなく、社員の生の声なども聞いてみてください。
緑視率を指標に。現状のオフィスと未来のオフィスへ向けて
生産性が上がる緑視率は10%~15%。オフィスでどのように実現した?
藤川:千葉大学との共同研究の前に、全拠点の緑化を進めていました。先ほど話したように、元々はインテリアの一部として大きな観葉植物がところどころ配置されているようなオフィスでしたが、既に効果的とされている緑化を導入していきました。
ここで一つ指標にしたのは「緑視率」という考え方です。人の目に見える緑の割合を表すのですが、この「緑視率」10%~15%が一番生産性が高いとされているのです。
従業員が実際に仕事をしている目線、つまりデスクに座ってパソコンや電話を使用しているときに常にその視線の先に緑が10%~15%入るようにする、というものです。
理屈は理解出来ても、実際にどこに何を配置すれば常に目に入るようになるのか、かなり模索しましたね。
当社でこの「緑視率」10%~15%をどういう配置で実現したかというと、デスクの間に小さな植栽を沢山置くというやり方です。とはいえ、営業と開発では使用するモニターの大きさが違ったり、ただ机に置けばいいというものでもありませんでした。
スタンドを利用したり、工夫を凝らしてどこに座っても「緑視率」10%~15%が実現できるよう調整しました。
想像していたよりかなりコンパクトで数が非常に多いですね。メンテナンスが大変そうだと思ってしまいましたが、その点はいかがでしょうか?
藤川:パートナー会社にメンテナンスを依頼していますが、非常に手際が良くあっという間に全テーブルをきれいにしてくれるんです(笑)いつも神業だなと尊敬しています。
メンテナンスを考えると生の植物ではなくフェイクグリーンはどうかという意見もありましたが、そこはこだわりたかったんです。呼吸する生きた植物だからこそ空間に良い影響があると。
社内の反響はいかがですか?
藤川:正式な効果検証はこれからですが、社員に話を聞くと印象は良くなったという声が多いですね。緑があると落ち着きますし、新たな発想もでてきやすい。
年に2~3回社内サーベイをしていますし、今回の第三者機関の結果も踏まえて、より良い環境を全社に導入していきたいと思っています。
ファシリティ担当者のためのFMsalon
藤川様は当社主催のFMsalonのメンバーですが、ご参加されていてどのように感じていますか?
藤川:他社のオフィスを実際に見れるというのは非常にありがたいです。他社のオフィスを見る機会はあったとしても、オフィス構築を担当した方が自ら説明してくれるというのは貴重ですよね。どういう風にこのオフィスができていったのか、どんな課題があったのかなど、リアルな話が聞けて参考になります。
ファシリティに携わる方と交流が持てるのも魅力的です。社内でファシリティを担当するのは数人だけなので、同じ業務を遂行するもの同士、分かりあえる部分も多いです。
FMsalonの企画として、同じビル内に入っている別の企業を比較できるようなオフィスツアーというのも面白いかもしれませんね!
オフィスの在り方についてお考えをお聞かせください
藤川:オフィスは従業員にとっては自宅よりも長くいる場所です。オフィスをより快適に、より居心地よくしていきたいと思っています。出社したくなるようなオフィスをこれからも追求したいですね。
藤原:オフィスに来るとコミュニケーションもとりやすいですし、アイデアは人とコミュニケーションをとることで生まれると思っています。コミュニケーションから生まれる新たな気づきが、人にも会社にもポジティブな影響を与え続けていけばいいなと。
藤川:オフィスの環境整備や拠点間の標準化は進める一方、個人的には満員電車が嫌だな、出社したくないなと思うこともあるのも事実です。他のメンバーも同じだと思います。
将来的には出社時間を思い切ってずらしてみたり、スペインなどで行われているシエスタのようなお昼の使い方があったり、36拠点へいつもどこにでも出社しても良いなど、よりハイブリッドな働き方ができるようになったらと考えています。
企業情報:ディップ株式会社
取材:2023年1月