新型コロナウイルスの世界規模での感染拡大により、リモートワークが浸透していったことで、人々の働く意識や企業経営のあり方には大きな変化が生まれました。
ウィズコロナからポストコロナ社会へ移行する中、利用頻度が低下しているオフィスには、新たな価値の創造が求められています。
本記事では、今オフィスに求められているものや新しいオフィス像について解説していきながら、人々の新しい価値観に対応したオフィスづくりのヒントとなるアイディアを紹介していきます。
ポストコロナで働き方はどう変わった?日本と海外の今を比較
2023年5月8日より、新型コロナウイルスの位置付けが、季節性インフルエンザと同類の「5類」へと引き下げられ、本格的に社会や経済が活発さを取り戻そうと動いています。
多くの企業が、これまでの感染対策優先の働き方や社内制度から脱却し、新たな働き方へと舵を切り直している中、日本と海外ではその動きに違いが生じ始めています。
ポストコロナ社会に突入したことで、人々の働き方はどのように変わろうとしているのでしょうか。
ここからは、国内外の企業の働き方の方針変更の事例を交えながら、日本と海外の動きを比較していきます。
出社回帰が進む日本
5類に移行された5月8日朝の主要駅周辺の人出は、東京・大阪共に、ほぼコロナ前の水準にまで回復しており、多くの企業が従業員にオフィスへの出社を促していることが明確に示されました。
これまで原則在宅としていたTOYO TIREは、5月8日から原則出社へと切り替え、自動車メーカーのホンダやGMOインターネットグループ、伊藤忠は、5類移行以前から全従業員の原則出社に働き方ルールを変更しています。
パーソル総合研究所の調査では、多くの日本人がリモートワークよりも出社した方が生産性が高いと考えていることが報告されており、日本人が対面文化を好む傾向が強いことが、出社回帰に拍車をかけていると考えられます。
多様な働き方が進化中の海外
欧米諸国では、オフィスへの出社とリモートワークが柔軟に組み合わされた働き方を採用している企業が目立ちます。
これは、欧米諸国のリモートワーク普及率が日本よりも高く、すでにリモートワークに対応した社内制度や職場環境が整っているケースが多いことから、リモートワークの継続を選択する企業が多いためです。
例えば、IT大手のGAFAMでは、GoogleとApple、Metaは基本的にハイブリッド、AmazonとMicrosoftは、リモートワークと出社のどちらで働くかの選択権を社員に委ねています。
従業員が柔軟に働き方を選択できることは、生産性向上はもちろん、離職率低下にも大きく貢献することから、多くの海外企業が、自由度の高い働き方が実現できる制度設計や環境整備を進めているのです。
日本で「原則出社」の揺れ戻しが起こる理由
日本における出社回帰の動きが鮮明となっている背景には、コロナ禍でリモートワークを余儀なくされたことにより、様々な弊害が発生したことが大きく関わっています。
海外企業でも同様に、リモートワークによるマイナス効果を懸念し、出社を促す方針へと働き方を変更する動きが見られます。
ここからは、出社回帰を促すこととなった、リモートワークによって生まれるマイナス効果について解説していきます。
コミュニケーションロス
リモートワークにより、オンライン会議やチャットツールでのコミュニケーションが定着した一方で、社内でのコミュニケーション不足に危機感を覚えた経営者は少なくありません。
先述のGMOインターネットグループでは、リモートワークを導入することで、非公式コミュニケーションの重要性に気づき、改めて原則出社スタイルに戻しています。
理由は、無駄を排除したオンラインコミュニケーションでは、日常のちょっとした雑談や会話といった非公式コミュニケーションの機会が失われてしまうためです。
雑談のような日々の小さなやりとりには、新しいアイディアの種や、相手への配慮などの様々な要素が含まれています。
それらに触れる機会が失われていくことで、従業員同士の意思疎通が円滑にいかなくなったり、仕事に対するコミット力の低下を招いたりしてしまうのです。
生産性の低下
本記事冒頭でも紹介したパーソル総合研究所による調査では、オフィス出社時の生産性を100とした際の、リモートワークの生産性は平均89.6%となっており、リモートワークの方が生産性が低下するという結果が明らかとなっています。
職種別に生産性の変化を見てみると、Webデザインなどのクリエイティブ職の生産性は、オフィスとリモートワークのいずれにおいても高い状態を維持しています。
対して、コンサルタントや営業、コーポレート職の生産性は、リモートワークで大きく低下するという傾向が表れているのです。
この結果から、チームで進めたり、人との接触が必要とされる仕事ほど、対面コミュニケーションの断絶が仕事のパフォーマンスに及ぼす影響が大きいことがわかります。
企業文化の希薄化
SNS投稿管理ツールを開発している米Buffer社による調査では、リモートワークにより、同僚とのつながりが希薄になったと、回答者の52%が感じていることが報告されています。
加えて、米保険・金融サービス企業のプルデンシャル・ファイナンシャルは、アメリカの労働者の55%が、リモートワークによって会社とのつながりが弱くなったと感じているという調査結果を報じています。
従業員と企業の心理的なつながりの弱体化は、従業員の企業に対する仲間意識、帰属意識を弱め、離職率の押し上げにつながってしまいます。
また、リモートワークにより従業員が孤立した状態で、スケジュール通りにオンラインで会話するだけでは、イノベーションを起こすことは難しいでしょう。
このように、リモートワークが長期化し定着することによる、企業文化の希薄化が進むことで、社内の一体感が失われ、結果的に企業の成長を止めてしまうのです。
ポストコロナのオフィスに求められるもの
リモートワークを経験したことにより、オフィスに出社し、物理的に人が集まって働くことの重要性を多くの企業が再認識しました。
そのため、まさに今、オフィスには、コロナ前とは異なる新たな価値を提供する存在へと進化することが求められているのです。
ここからは、仕事や働き方に対する人々の意識が大きく変化したポストコロナ社会において、オフィスはどのような役割を担い、どのような価値を提供することが求められているのかを、3つのキーワードをあげて解説していきます。
COLLABORATION(共同)
コロナ禍における企業経営において問題視された「生産性の低下」「企業文化の希薄化」「イノベーションの鈍化」はすべて、対面コミュニケーションの減少に起因しています。
そのため、ポストコロナのオフィスは、従業員同士が社内を自由に横断して有機的なつながりを構築し、多様なコラボレーションが生まれやすくなる空間となることが求められているのです。
日々の雑談が、従業員同士の信頼関係を強化し、イノベーティブなアイディアを生み、個人と組織のパフォーマンスを高めるように、オフィスに出社することでしか得られない価値は、いまだ数多く存在しています。
このような、コミュニケーションハブ機能は、新たなオフィスのスタンダードとして、今後広く浸透していくでしょう。
HEALTH & WELL-BEING(健康と幸福)
ポストコロナのオフィストレンドとして、世界的に注目を集めているのが、従業員の健康と幸福に配慮したオフィスです。
このトレンドの背景には、パンデミックが多くの人のソーシャルスキルを低下させ、仕事のパフォーマンスや、その人の人生の幸福度にもネガティブな影響を与えたことがあげられます。
そのため、心身と社会的な健康を実現し、高い満足状態で働くことができる労働環境、つまりは、従業員がリラックスでき、ストレスの少ないオフィス空間が重要視されるようになっています。
従業員がより良い精神状態で仕事に集中できるように配慮した設計であることは、これからのオフィスに求められる条件であり、出社率向上につながるポイントでもあるのです。
SUSTAINABILITY(持続可能性)
パンデミックにより多くのオフィスが閉鎖・縮小されたことで、オフィスビルの淘汰が進んだ結果、オフィスにも環境配慮やサステナビリティの視点が求められる機運が高まっています。
サステナブルなオフィスが注目を集めている理由は、オフィスの建設・ランニングコスト削減と、従業員満足度の向上、そして企業価値創造の3つを実現することができるからです。
オフィスの建設やインテリアに使用される資材や、運営に利用されるエネルギーは、持続可能性の高いものが選ばれ、オフィスの随所には最新のグリーンテクノロジーが採用されています。
自然とのつながりを感じられる環境で働くことは、そこで働く従業員のウェルビーングを高めることに大きく貢献するため、人間と地球環境の双方にポジティブな影響を与えることも、これからのオフィスに求められる重要な役割なのです。
出社したくなるオフィスデザインのアイディア4選
出社回帰の動きは、コロナ禍でのコミュニケーション不全を解消するものとして、おおむね好意的に受け止められ、オフィス内はコロナ前のような活況を取り戻しつつあります。
企業が出社を促す一方で、Z世代を中心とする若手従業員ほど、対面の環境下での仕事に慣れていないことから、オフィスでの働き方に戸惑う場面が少なくありません。
イノベーティブな企業文化を再興させるためには、若手従業員の存在は不可欠です。
そのため、ポストコロナのオフィスデザインには、若手従業員を取り巻く状況や彼らの意識に目を向け、寄り添う視点を取り入れることが、出社率を高めるうえで重要なポイントとなってきます。
ここからは、オフィスで働くことでしか得られない付加価値を従業員に提供し、「オフィスで働くっていいな」「オフィスで仕事したい」と思われるようなオフィスを実現するために、効果的なアイディアを4つ紹介していきます。
ソーシャルとプライベートの融合
ポストコロナのオフィスでは、従業員同士のコミュニケーションやコラボレーションが活性化される環境と、集中して仕事に取り組むことができる環境の両方が実現されることが求められます。
クラウド型ストレージサービスを提供しているDropbox社が実施した調査では、回答者の10人に4人の割合で、自宅で仕事をした方が集中できると感じていることが報じられています。
さらに同調査では、マネジメント職に就いている従業員ほど、絶え間ない中断に集中力を妨げられるオフィスよりも、自宅の方がより集中して仕事に取り組めるという結果が出ています。
このような調査から、オフィスには、従業員同士の交流の活性化を促すソーシャルスペースやオープンなワーキングスペースと、仕事に集中して取り組むことができるプライベートな空間を設ける必要があることが見えてきます。
「集中」と「共同」を、メリハリをつけて使い分けられるように、オフィス内を物理的にゾーニングすることで、従業員はその時々に最適な環境を選びながら仕事を進めることができるのです。
自宅とオフィスの融合「レジマーシャルデザイン」
リモートワークにより自宅で仕事をすることに慣れてしまった従業員が、再びオフィスで働くようになったことによるストレスを抱かないために、自宅の雰囲気を取り入れたオフィスデザインがアメリカを中心に注目を集めています。
このオフィスデザインは「レジマーシャルデザイン(Resimercial Design)」と呼ばれ、「住宅」を意味する「レジデンス(Residence)」とビジネスの意味を持つ「コマーシャル(Commercial)」を合わせた造語です。
従来のオフィスのような無機質さや堅苦しさを排除した、自宅のようにリラックスして過ごすことができるインテリアやレイアウトのスタイルを指す「レジマーシャルデザイン」には、以下のような特徴が見られます。
レジマーシャルデザインの特徴
木材やコットンなどの自然素材を使用した家具
蛍光灯ではなく、自然光やそれに近い柔らかな光を感じられる照明
自然に根差した色で構成されたカラーパレット「アースカラー」でまとめたインテリア
緩やかな曲線を描くデザインやモチーフの家具・インテリア
このようなオフィス空間は、従業員のストレスを軽減し、満足度の高い時間を提供するため、彼らのウェルビーング向上にも貢献します。
オフィス衛生への配慮
パンデミックによって人々の衛生管理に対する意識が高まったことは、新しいオフィス空間にも反映される必要があります。
アルコールなどによる定期的な消毒作業が習慣化した現在においては、オフィスに設置する家具も、掃除しやすい素材であることが求められているのです。
例えば、液体を噴射してもシミになりにくく、速乾性の高いマイクロファイバー素材のソファなどが代表的な一例と言えます。
また、木製家具もオフィスの衛生管理においては、注目されているトピックです。
フィンランドのメディア「forest.fi」による調査では、プラスチックなどの素材に比べ、木の表面ではコロナウイルスが早期に感染力を失うとされ、病院や公共施設などの人が集まる場所での木材家具の設置が増加傾向にあります。
従業員の健康と地球環境に配慮した「バイオフィリックデザイン」
従業員の健康とウェルビーイング向上、そして地球環境への配慮の両方を叶える「バイオフィリックデザイン(Biophilic Design)」は、今最もホットなインテリアデザインのトレンドとして高い関心を集めています。
「人間は、自然の風や水の流れ、植物などに触れることで、幸せを感じるようにできている」という考えに基づいて生まれた概念で、「生命・自然」を意味する「バイオ(Bio)」と「愛好・趣味」を意味する「フィリア(Philia)」から成る造語です。
自然的要素に接することで従業員の心身の健康の向上を図ることができるというこの概念は、以下のような形で、オフィス空間に取り込むことができます。
バイオフィリックデザインのアイディア
グリーンウォール(壁を観葉植物などで飾る演出)
ウォーターウォール(ガラス面や壁面を水が流れる演出)
噴水
森や海などの周辺の自然に溶け込むオフィスデザイン
杉や檜などを用いた和テイストのインテリアや家具
オフィスへの取り入れ方にまだ決まった概念や形はなく、世界中でバイオフィリックデザインを取り入れた個性溢れるオフィスやオフィスビルを見つけることが可能です。
自然とのつながりを感じられる空間設計は、そこで働く従業員の心身にポジティブな影響を与えるだけでなく、サステナブルな社会づくりに対する意識向上にも貢献します。
スタートアップのオフィスを中心として、最新のテクノロジーを駆使したバイオフィリックデザインによる実験的で刺激的なオフィスが次々誕生しているため、こちらも注視することをおすすめします。
働く人の意識の変化に合わせてオフィスもアップデート
新型コロナウイルスによって、「自宅で働く」という新たな働き方が生まれ定着したことは、オフィスのあり方や存在意義、ひいては、企業と従業員の関係性を再考し、再定義する機会となりました。
今回紹介したオフィスデザインのトレンドは、オフィスに新たな付加価値を設けるための海外の最新事例になります。
これらのアイディアを参考に、新たな価値を創造・提供するオフィスにアップデートすることで、従業員エンゲージメントが向上し、ポストコロナ時代でのさらなる自社の飛躍と成長を実現することができるのではないでしょうか。
当社では、これまで培ってきた豊富な実績と経験を踏まえた確かなコンサルティング力で、お客様にとっての最適なオフィス作りをサポートしますので、お気軽にご相談ください。