オフィスの移転において、移転先の候補として「居抜きオフィス」を検討されている企業も多いのではないでしょうか。オフィスの内装や設備を前の借主から引き継ぐことで、初期費用の削減や移転期間の短縮が可能になるなど、居抜きオフィスには多くのメリットがあります。
本記事では、オフィス移転における居抜きオフィスについて解説し、メリットや契約時のポイントについて解説していきます。
また、以下の記事ではオフィス移転の全体的なスケジュールを網羅的にまとめていますので、あわせてご一読ください。
居抜きオフィスに関する契約について知っておくことのメリット
そもそも居抜きとは、前の借主が利用していた内装やレイアウト、設備などを新しい借主が引き継いで入居することです。居抜きオフィスに近い形態として「セットアップオフィス」が挙げられますが、借主が内装や設備の費用を負担する居抜きオフィスに対して、物件の貸主(オーナー)が内装や設備の費用を負担するオフィス形態なのがセットアップオフィスです。居抜きの特徴として、一般的な賃貸オフィスとは異なる契約内容が含まれるため、事前に契約のポイントを把握しておき、トラブルを未然に防ぎましょう。
居抜きオフィスのメリット
一般的な賃貸契約に加えて、造作譲渡契約も必要になる居抜きオフィスですが、オフィス移転においてはさまざまなメリットがあります。
内装費・設備費を大幅に削減できる
居抜きオフィスでは、以前の借主が使用していた内装や設置済みの設備、什器などをそのままの状態で利用することができます。レイアウトを変更したい場合は、物件が定める条件の範囲内で内装に手を加えることも可能です。
一般的なオフィス移転では、自社の希望に合わせて内装工事を行ったり、設備を設置したりすると高額な費用が発生しますが、居抜きオフィスでは最低限のコストで済ませることができます。
契約を開始してから短期間で業務を開始できる
一般的に、オフィスの内装工事には1~2か月程度の期間を要します。対して、居抜きオフィスでは内装や設備がある程度整備されていることが多いため、電話回線やネットワークなど必要に応じた最低限の工事を行うだけで、契約を開始してから短期間で業務を開始することができます。
またレイアウトの検討や場合によっては設備・什器の移動にかかる手間の削減など、長期に渡るオフィス移転プロジェクトの期間を短縮できることも大きなメリットといえるでしょう。
居抜きオフィス契約時のポイント
契約不適合責任
居抜き物件での注意点の一つは、造作や設備機器などの契約不適合責任です。もしも、譲渡された設備機器に不具合があり使えなかったなど、契約にそぐわない何らしかの不適合が発生したときには、その責任は誰が負うものであるか所在を明らかにしておくことが大切です。
契約の内容を両者が細かく意思確認できると安心です。
しっかりと事前確認をし、あとからトラブルにつながらないようにしましょう。
リース契約の確認
什器などの設備機器がリース契約されている場合、契約者の変更手続きを進める必要があります。
テナントの賃貸契約と、設備などのリース契約は全くの別物と考えるのが一般的です。賃貸契約を済ませたとしても、造作設備の使用権利が譲渡されたわけではありませんので、注意しましょう。
リース契約者の変更等は、各リース会社の手続きに沿って進めましょう。その際には、改めてリース機器の耐用年数や取得価格などを確認し、スムーズな税務処理を行えるように資料を整えてもらうことをおすすめします。
居抜き契約で重要な役割をもつ造作譲渡契約
造作譲渡とは?
居抜き物件には、「造作譲渡」という契約があります。造作譲渡とは、物件の内装や厨房設備、空調設備、造作家具などの造作一式を新しい借主が買い取る仕組みです。
買い取りの価格は設備の仕様やグレード、耐用年数などで変わりますが、退去する側は、無駄な処分費がかからずに済みます。また、新しい借主側も設備投資を抑えて営業を始めることができるため、双方にとっての良い面があります。
全てを買い取るのではなく、必要な部分に関して対応することもできるため、新しい借主にも無駄が少ないでしょう。
造作譲渡の種類
造作譲渡の形態は、買い取りのお金が発生するものから、無償のものまで様々なケースがあります。
・無償貸与
無償貸与は、以前の借主が内装や設備などを造作残置していくもので、賃貸契約を結ぶことによりそのままの状態で使用できる契約形態です。たとえば、既に取り付けられているエアコン設備の性能が良く十分に使える場合、取り外さずに使うことはよくあるケースです。
賃貸契約の中では、特記事項や特約などに無償貸与が記載されていることがあります。
・リース(サブリース)
オフィス機器などがリース契約になっていて、以前の借主から新しい借主へと契約主を変更するケースです。オフィスの賃貸契約と、機器のリース契約は別になりますので、それぞれに契約を結ぶことになります。
・造作買い取り
以前の借主が造作した設備を買い取るものです。造作譲渡料は仕様や耐用年数などから双方で協議を行う形になり、賃貸契約とは別の造作譲渡契約が結ばれることが一般的です。
基本的な考え方としては、賃貸するオフィスと、造作設備は別々のものとなりますので、買い取ったものは新しい借主の持ち物という認識です。
造作譲渡明細書の作成について
居抜きの物件を借りるときには、「造作譲渡契約」が必要になります。テナントの賃貸契約は、貸主と借主の賃貸契約ですが、「造作譲渡契約」は、以前の借主と新しい借主が契約することが一般的です。
造作譲渡契約をしておくことで、必要な造作物や設備機器などが確実にのこされているかどうか、入居の際に改めてチェックすることができ、トラブル防止につながります。
造作譲渡契約に記載する内容は、造作設備一つひとつ、造作場所の形状、箇所などを細かく表記してあることが望ましいでしょう。また、買い取り金額など金銭の発生がある場合も、しっかりと詳細に記載します。
なんとなくの口約束ではなく、記録として残しておくことは非常に大切なことですので、きちんとした契約を結びましょう。
居抜きオフィスの設備等における減価償却の考え方
居抜き物件の設備が買い取りの場合、価格は設備などの耐用年数から減価償却を行い、計算されるのが一般的です。詳しく解説しましょう。
居抜きオフィス契約時の重要な税務「減価償却」
居抜き物件の設備等の価格は減価償却で計算されますが、減価償却とは、毎年一定の額を経費として償却計上するものです。設備機器により、耐用年数は決まっており、耐用年数の間で償却していきます。
設備機器の耐用年数は、全て同じ年数ではありません。それぞれ個々に年数に違いがあります。しかし、譲り受けた設備の耐用年数が不明な場合、年数が短いものも長いものも、まとめて同じ長さで償却しなければならないことがあり、税務上で損をする可能性がありますので、注意しましょう。
居抜きオフィスの場合の減価償却の計算方法
減価償却の計算方法には「定額法」と「定率法」の二つがあります。また、経費に計上する期間は耐用年数分になります。
・定額法
定額法とは、毎年同じ金額を経費に計上する方法です。計算式と実際の計算例は次の通りです。
取得価額は50万円、償却率0.2%、耐用年数5年の内1年目と仮定する
計算式 減価償却費=取得価額×償却率
計算例 10万円=50万×0.2
・定率法
定率法とは、毎年同じ率の金額で経費に計上する方法です。率で計上するため、年々分母となる金額は減っていきます。
取得価額は50万円、償却率0.4%、耐用年数5年の内1年目と仮定する
計算式 減価償却費=(取得価額―償却累計額)×償却率
計算例 20万円=50万-0×0.4
毎年償却される「償却率」は、税法上であらかじめ決められています。
まとめ
居抜き物件は、契約前に内装や設備が整っているため、オフィス移転における初期費用が抑えられ短期間で入居ができるメリットがあります。しかし、下見の時点から契約を開始するまでに内部の状況が変わっていたり、設備を実際に使用してみたら不具合があったりと何かとトラブルが起こりやすいことも事実です。
契約前には必ず物件まで足を運び、内見をしたうえで内装や設備・什器の確認をしっかりと行いましょう。「こんなはずじゃなかった」と後悔しないオフィス移転にするためにも、設備の所有者、契約不適合責任、造作物の内容などに細かく条件を記載して、書面で確認したうえで契約することが大切です。