ハイブリッドワークが進み、オフィスの有効活用の観点からも「フリーアドレス」が広まりつつあります。フリーアドレスとは、オフィスに設置された社員の自席(固定席)をなくし、好きな場所を選んで業務をする働き方です。
しかし従来のワークスタイルと大きく変わることから「どこに着目して導入の検討をしたらいいのかわからない」「本当に自社も導入すべきなのか」といったご相談も多くいただきます。そこで当記事では、フリーアドレスのメリット・デメリット、運用ルール決めのポイント、導入手順などを解説します。失敗しないフリーアドレス導入のためのホワイトペーパーも用意しています。
オフィス空間の有効活用やコミュニケーション促進の手段としてフリーアドレスを検討中の方はぜひご一読ください。
フリーアドレスとは?
フリーアドレスとは、オフィス内に固定された個人用デスクを設けず、共用スペースの好きなところで仕事をするワークスタイルのこと。
テレワークやフレックスタイム制などの働き方の変化に伴い、常時オフィスの自席を使う必要性は薄れつつあります。そこで、稼働率の低いデスクを削減し、共有スペースに変えることで、オフィスの空間を有効活用するフリーアドレスが注目を浴びています。
データや書類のクラウド管理やペーパーレス化が実現しやすくなったこともフリーアドレスの導入が広まっている背景の一つです。
フリーアドレスの目的ごとのメリット・デメリット
フリーアドレス導入に際して最も重要なのが、自社に導入する【目的を明確にする】こと。フリーアドレスにはデメリットも存在するため、自社の目的に合うものであるか、導入することによる不都合が生じないかを検討する必要があります。
フリーアドレスの目的として代表的な「面積削減」「コミュニケーション促進」「ABWの一環」の3つについて、目的ごとのメリットとデメリットを解説します。
面積削減のメリット・デメリット
フリーアドレスを実現することでオフィス面積は削減が見込めます。一方で、自席がなくなることへの不満や将来的なスペースの不足といった課題を抱えうるため、注意が必要です。
【メリット】
フリーアドレスにすることで、使われていないデスクがあった場所やデッドスペースを有効活用できます。会社を移転してフリーアドレスを導入する場合は、オフィス面積を減らした上で賃料や光熱費などのコストを抑えることも可能です。
【デメリット】
社員1人につき1つのデスクはないため、社員数増加によって共有スペースの席数が足りなくなる可能性があります。今後の人員増加も見越したオフィス面積の設定が重要です。
それぞれの自席がなくなることで「居場所がなくなった」と感じる社員が出る可能性もあるため、理解の促進が求められます。
コミュニケーション上のメリット・デメリット
席を固定しないことで日々違う席に座ることになるため、いつもと違う人とのコミュニケーションが取りやすくなることはフリーアドレスの大きなメリット。一方で固定席がなくなることで逆にコミュニケーションが取りにくくなる場合もあるので配慮が求められます。
【メリット】
既存の部門・部署にとらわれず、垣根を越えたコミュニケーションが取れるようになります。社内での人脈が広がったり、情報共有しやすくなったりすることで、新たな発想や企画が生まれやすい点も特徴です。
【デメリット】
部門・部署に所属している意識が薄くなり、チームとしての一体感が生まれにくくなる恐れがあります。
誰がどこに座っているか把握しにくく、円滑に仕事の依頼ができなかったり、新入社員が部署の先輩・上司を見つけられず、確認・質問ができないといったオペレーション上の問題が生じる可能性も考慮しなければなりません。
ABWの一環としてのメリット・デメリット
ABWとは、社員の業務内容や気分などによって働く場所を自由に選択できるワークスタイルのこと。
フリーアドレスと方向性は似ていますが、フリーアドレスがオフィスのワークスペースの中で座席を固定しないのに対し、ABWの場合は自宅やカフェ、サテライトオフィスなど場所そのものに制約がありません。ABWの一環として、オフィスをフリーアドレス化する企業も増えているのが現状です。
【メリット】
社員自身が働きたい場所を選択できることで、モチベーションの向上が見込めます。主体性を持って業務に取り組むようになり、生産性向上に繋がることも。
また、ABWやフリーアドレスは従来の企業にはなかった働き方なので、自社で導入していることをアピールすることで、人材の採用や従業員の定着率向上につながる可能性もあります。
【デメリット】
社員それぞれが自由に働く場所を決めるため、チームメンバーがどこで働いているのか把握しにくくなります。マネジメントの観点で見ても、部下が目の前で働いていないため、働きぶりがわからずに評価しにくくなるかもしれません。
また、隣の席に座る社員が別の部署のメンバーになるのが日常です。そのため、これまで以上に機密情報の取り扱いに対するルールをしっかり定め、徹底していくことが求められます。
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フリーアドレスが向いている企業・向いていない企業
多くのメリットが得られるフリーアドレスですが、すべての企業・部署に適したワークスタイルとは言えません。業種や業務内容によって向き・不向きがあるので、把握したうえで検討する必要があります。
フリーアドレスが向いている企業・職種
フリーアドレスが向いているのは以下の特徴に当てはまる企業です。
– ノートPCで業務が進められる
– ペーパーレス化が促進できる、もしくはすでに実現している
– 外出やミーティングなどで自席があまり使われていない
– 時間や場所にとらわれない、柔軟な働き方ができる企業に転換したい
– 社内コミュニケーションを活性化させたい
ノートPCが社員に1台ずつあれば業務できる企業はフリーアドレスとの親和性も高いと言えるでしょう。ミーティングが多い企画やマーケティング職、外回りがメインの営業職などには特に最適です。
フリーアドレスが向いていない企業・職種
一方、フリーアドレスが向いていない企業・職種もあります。
– 常にデスクで作業している社員が多い
– 紙の書類や資料を多く扱う
– 個人情報を扱う
– 研究や商品開発など、固定した場所に物を置いておくほうが効率的になる
自席を用意したほうが業務の効率が良い場合もあります。また、個人情報・機密情報などの取り扱いが多い場合、業務スペースを固定することでセキュリティを高めることが可能です。
職種で言うと、総務や人事、事務などは自席での業務が多い場合フリーアドレス化せずに、お互いの顔が見える状態を維持すると良いでしょう。
業種によっては会社全体としてフリーアドレスが適さないケースもありますが、部署ごとに固定席の部署・フリーアドレスの部署を設けるなど部分導入が可能なケースも多くあります。
フリーアドレスの導入目的に沿った柔軟な活用を検討してみてください。
フリーアドレス導入のためのシステム面の整備
フリーアドレスを導入するには、システム面の整備も必要です。以下の4つについては必須と言えるでしょう。
– 電話
– PC
– インターネット
– セキュリティ対策
電話
どの社員がどこに座るのか毎日変わるため、電話の取り次ぎが難しくなります。社員それぞれが携帯電話などで対応できるように整備が必要です。
対応方法の例として、以下のものが挙げられます。
– 電話の子機のように持ち歩ける「デジタルコードレスフォン」の導入
– スマートフォンで内線を受けられる「クラウドPBX」の導入
– 社内専用の携帯電話を支給
– 電話対応のみ外部へ委託
自社の業務に合うシステムの導入が重要です。
PC
フリーアドレスでは席が固定されないため、基本的にノートPCでの業務が想定されます。現在デスクトップ型のPCを導入している場合は、ノートPCの購入やリースなどのコストが発生する点に留意しましょう。
業務内容によっては、性能の高いPCがないと動作が遅くなり、業務に支障をきたす場合もあります。社員の業務内容を把握し、それぞれに合わせた性能のPCを用意することが重要です。
インターネット
社員がどのスペースにいても仕事ができるよう、無線LAN環境の構築が必要です。社内で働く社員が一時的に大勢になったとしても、安定的に通信できる環境が求められます。場合によっては、インターネットの種類やプロバイダから検討し直す必要があります。
また、電波の届かない場所が出ないようにアクセスポイントの台数や設置場所を適切に検討しましょう。
セキュリティ対策
規模の大きい企業の場合、社員と来訪者がわかりにくくなるケースがあります。いつ・誰が・どの場所に出入りしたのか把握しやすいよう、入退室管理システムを導入するとオフィスのセキュリティを高めることが可能です。
私物のスマートフォンやタブレット端末から、社内ネットワークにアクセスできないように制御したり、クラウド上に保管されているデータの閲覧権限を制限したりといった対策も必要です。
失敗しないフリーアドレスの運用ルールづくり
フリーアドレスを導入する際、できるだけ失敗を防ぎながら運用していくために重要なポイントを5つ解説します。
– 自社の業務内容に則した適切なゾーニング
– 部署や「仲良し」単位で固まらない席決め
– クリンデスク徹底のための施策
– セキュリティに配慮した情報管理
– ルール・マナー浸透のための研修
自社の業務内容に則した適切なゾーニング
ゾーニングとは、どこに何のスペースを配置するのかを決めること。自社の業種や社員数、フリーアドレスを導入する目的などによって適切なゾーニングは異なります。
たとえば、ゾーニングには以下の考え方があります。
– チームゾーン:部署のメンバーと一緒に作業する場所
– アクティブゾーン:自分の業務を行いつつ、他部署のメンバーとの交流や情報共有ができる場所
– 集中ゾーン:1人で集中したいときに使う場所
– リフレッシュゾーン:休憩や気軽なコミュニケーションをする場所
部署ごとに使うエリアを決めて、その中で社員が自由に席を選べる「グループアドレス」にすると、チームの一体感や帰属意識が低下する課題の解消に有効です。
部署や「仲良し」単位で固まらない席決め
同じ部署のメンバーや仲の良い同期などが集まり、席が実質的に固定化しフリーアドレスが形骸化するのはありがちな失敗例の一つ。
席をくじで決めたり、週ごとに使う場所をローテーションする仕組みをつくったりなどの工夫で席を固定化させないことが対策になりえます。
クリーンデスク徹底のための施策
席は共有で使うため、使い終わったらデスクの上を片付け、置きっぱなしにしないルールも重要です。
片付ける場所に困らないよう、1人1台、鍵付きのパーソナルロッカーを用意して、ノートPCや私物などを入れておくスペースを確保します。社内用のモバイルバッグがあると、持ち運びが楽にできて便利です。
また、紙や文具類などの備品は集中一括管理に変更し、貸出・返却を一定の場所に設定すると整理整頓しやすくなります。
セキュリティに配慮した情報管理
個々のPC画面をのぞき込まれないように「のぞき見防止シート」を取り付けたり、離席時には画面ロックをかけたりするなどのルールも重要と言えるでしょう。
機密文書や資料を取り扱う場合は、表面の模様で中身の書類が読み取りにくくなる「セキュリティクリアファイル」などの利用も有効です。
ルール・マナー浸透のための研修
フリーアドレスをスムーズかつ快適に運用するには、社員へのルール・マナーの浸透が鍵。理解を促進するには、研修の実施が効果的です。
「デスクに物を放置しない」「電話やWebミーティングは専用スペースで行う」「デスクで仮眠しない」など、快適にオフィスを使うためのルールを設定し共有しましょう。
フリーアドレスの導入手順
フリーアドレスは導入する手順を誤ると、計画倒れに終わってしまう可能性があります。スムーズに導入するための手順について解説します。
意義や目的を明確にする
なぜ自社でフリーアドレスを導入するのか、フリーアドレスを導入することで何を実現したいのか、目的や意義を明確にします。
その上で、目的を社員に共有し理解を得ることが重要です。導入目的の理解が浸透していないと、思っていた効果が得られないどころか不満やモチベーション低下に繋がる可能性もあります。
どこで実現するか決める(リニューアルor移転)
フリーアドレスを導入するにあたって、現在のオフィスをリニューアルするのか、オフィスを移転し、新しいオフィスで実施するのかの意思決定も重要です。リニューアルか移転かによって必要な期間・手順・予算も異なります。
リニューアルの方が期間や予算の面でも社員への負担の面でもコストは抑えられますが、既存の占有面積の中で実施することが前提のため、設計に制約がでる場合も。移転を伴う場合は目的に則したフリーアドレスが実現できる面積・間取りを持つ物件を探すことが重要です。
デザイン・レイアウトを決める
フリーアドレスの導入目的に合わせて、デザインやレイアウトを決めていきます。動線やコミュニケーションの取りやすさなど、機能面に配慮したレイアウトを設計しつつ、目的にそったオフィスのデザインも重要です。
フリーアドレスの導入は当社ににご相談ください
フリーアドレスの導入にあたっては実施の有無の意思決定から導入の支援、アフターフォローまで豊富なフリーアドレスの導入支援実績をもつ当社にお任せください。
フリーアドレスの導入検討に:HATARABAサーベイ
フリーアドレス検討において最も重要なのは自社で導入する目的の明確化。そのためにも既存のオフィスにおける課題の抽出は欠かせません。
HATARABAサーベイでは現在のオフィスでの働き方について多角的な観点から調査を行い、オフィスの課題・改善点を抽出します。
抱えている課題がフリーアドレスの導入によって解決するのか、自社の目的がフリーアドレスの導入により実現するのかといったフリーアドレスそのものの実施判断の材料としても有効です。
フリーアドレス化を伴う移転に:オフィス移転コンサルティング
フリーアドレスのオフィスを実現するにあたって新しいオフィスに移転する場合、リニューアル以上に大掛かりなプロジェクトとなります。
当社が提供するオフィス移転コンサルティングでは、オフィス移転に際して必要となる意思決定および実際に現場で求められるタスクの遂行を導入検討段階から移転後のアフターフォローまで手厚くサポート。目的に合った最高のオフィス移転体験を実現します。
思い描いたフリーアドレスを実現する:オフィス内装コンペ
フリーアドレスの実施が決定し(移転を伴う場合は物件も決定した上で)、求められるのが具体的なオフィスのレイアウト・デザイン。導入目的に沿い、機能性だけでなく社員のモチベーションにもプラスに働きかけられるよう内装を決定します。
複数のデザイン案を比較検討したい場合、複数のデザイン案を募集し採用した案に対して報酬を支払うオフィス内装コンペをご利用いただくと、コストを抑えた上での比較検討が可能です。
まとめ
フリーアドレスのメリット・デメリットやルールづくりのポイントなどを解説しました。
フリーアドレスはワークスタイルの一つですが、何よりも重要なのが自社で導入する目的を明確にすること。目的や業態によってはフリーアドレスの部分導入などのより柔軟な運用が求められる場合もあります。
今回紹介したポイントや導入手順を参考に、オフィスのフリーアドレス化を検討してみてください。
当社ではフリーアドレスの実施判断から、実施する場合の導入サポート、導入後のアフターフォローまでワンストップでご支援可能です。
お問い合わせ・ご相談は無料で承りますので、「導入しようか迷っている」という方もぜひお気軽にご相談ください。