HATARABAでは、「コミュニケーション形成」や「企業文化醸成」といった定量化しにくいオフィス効果に関する一次情報を共有し、自社のオフィス戦略の解像度を上げる機会として、オフィス担当者に向けた会員サロン「FMconnect」を開催しています。
今回は、2026年3月18日にパーソルキャリア株式会社(以下、パーソルキャリア)の本社オフィスで開催されたFMconnectの様子をリポート。リアルなオフィス空間の体験と本音の議論を通して、参加者はどのような気づきを得たのでしょうか。当日の活気あふれる様子をダイジェストでお届けします。
FMconnectご参加企業
今回は下記の企業様をはじめとする、11社のファシリティ担当者にご参加いただきました。
・NECネッツエスアイ株式会社
・SOMPOコーポレートサービス株式会社
・株式会社セブン-イレブン・ジャパン
・株式会社トリドールホールディングス
・日本たばこ産業株式会社
・フューチャー株式会社
・ミツイワ株式会社
など (五十音順)
パーソルキャリアの実例に学ぶ「オフィスの今」
パーソルキャリアは、2024年10月21日に本社を丸の内(丸ビル)から「麻布台ヒルズ(森JPタワー)」へ移転しています。冒頭では、パーソルキャリアの戦略総務部マネージャーである今泉 創(いまいずみ はじめ)氏が登壇し、22年ぶりとなる移転の裏側を語りました。
周辺環境や会社の在り方の変化に対応するためのオフィス戦略
同社が22年ぶりの移転を決めた理由は、「企業の在り方と働き方の変化」に集約されます。
2000年代初頭に入居した丸ビルは、言わずと知れたハイグレードビル。対面での商談や面談が当たり前だった時代、本社を訪れるクライアントや転職希望者に企業のブランドを示し、社会的信頼を獲得するのにふさわしい環境でした。
「当時、コンセプトをつくってオフィスを設計・デザインする考え方はありませんでした。全員が出社してオフィス内でお客様と数多くの面談を行うというはたらき方に合わせてオフィスは作られており、オフィスは利益を上げるための場所。当時オフィスに求められていたのは、『多くの社員を収容できること』と『効率よく働けること』の2つでした。」(今泉氏)
しかし、コロナ禍に見舞われた2020年以降の社会環境の変化とともに、オフィスの役割は大きく揺らぎます。商談の9割以上がオンライン化し、商談ブースのほとんどが不要に。単なる利益追求ではなく、「人々に『はたらく』を自分のものにする力を」のミッションに基づいた価値創造をめざす経営へとシフトチェンジしたことで、会社の在り方も変わりました。
「日々の業務や組織運営にミッションをどう結びつけていくかが重要になる中で、オフィスという“はたらく場所”の役割についても見直す機会が訪れていました。そこで、社員一人ひとりがミッションを意識し、具体的な行動や日々の業務の中で自然に体現できるオフィスをつくることになったのです」(今泉氏)
ミッションから設計を逆算。約5か月をかけて、コンセプト「GIVE POWER」を策定
パーソルキャリアのオフィス設計は、「ミッションに基づいた行動をどう生み出すか」から逆算されています。
まずは、経営層一人ひとりに「めざす会社像」をヒアリングし、思想の言語化からスタート。さらに、社内で成果を出している社員の動きを徹底的に分析し、それを「4つの行動テーマ」に分類するロジカルなアプローチで、抽象的なミッションを「GIVE POWER」というコンセプトにまとめました。
フロア内には、「GIVE POWER」をさらに具体化した「外と接する」「コミュニティを育む」「越境し、協働する」「スキルを発揮する」の4つの行動テーマに即したエリアが構築されています。
コンセプト設計にかけた期間は約5ヵ月。オフィスを「企業のミッションを体現するための場」として再定義したプロセスは、多くの参加者の関心を集めました。
対話を通じて社員を巻き込み、チェンジマネジメントを実現
交通利便性の低下や、ブランドイメージの低下などへの懸念に対しては、「経営層からのメッセージ発信と各部署からのアンバサダー選出が効果的だった」と今泉氏。経営トップによる「なぜ麻布台なのか」の丁寧な説明と、有志による麻布台本社活性化コミュニティの立ち上げにより、比較的スムーズにチェンジマネジメントが進んだといいます。
「移転後は、4つのテーマに基づく定期的なアンケート調査を実施し、オフィス活用データを毎月収集・分析してPDCAサイクルを回しています。新卒の内定承諾率が着実に上昇するなど、移転の定量的な効果も出てきました。一方、運用1年半を経て、越境し、協働する機能の不足も明らかになっています。そこで、越境、協働に特化した増床フロアを22階に新設。プロジェクトルームゾーン、パネルゾーン、イベントゾーンの3つのエリアを配置し、2026年2月末にオープンしています」(今泉氏)
設計から運用、改善までのさまざまな取り組みを聞いた参加者からは、移転直後の愛着形成やコミュニティの立ち上がりを早める工夫について活発に質問が上がっていました。
コンセプトの体現を実感するオフィスツアー
オフィスツアーでは、4つのエリアのうち「“外”と接する」エリアを実際に見学しました。
「“外”と接する」
カスタマー、クライアント、パートナー、グループ会社との協働、交流、情報収集などを目的としたエリアです。
エントランスを入ってすぐ目につくのが、社員の多様性と「はたらく」の未来を表現した大きなウォールアート「Mission Wall」。社員とアーティストが対話を重ね、「人々に『はたらく』を自分のものにする力を」のミッションをビジュアル化したそうです。
「愛着が生まれるよね」「自分の思いが絵になって残るのはいいね」と話し合いながら、熱心に写真を撮る参加者の姿もありました。
また、パシフィック・リーグのタイトルパートナーであるパーソルグループ。2025年にパ・リーグを制した阪神タイガースナインのサインも飾られていました。
「FMconnect」を開催したオープン・ラウンジも、「外と接するエリア」のひとつ。グループ会社やクライアント、社外パートナー、カスタマーなどとの交流会やイベントなどが開催されています。
こちらの壁面アートは、ヘラルボニー社のもの。
お客様とより深い関係性構築に焦点を当てたエリア。グループ他社の社員も滞在しており活気があるエリアです。
通路の先の窓からは、東京タワーが間近に!都心の景気を眺めながらの気分転換は、新しいアイデアを運んでくれそうです。
重要な会議などに使われる会議室は、中央に大机を置き、ビルの緩やかなカーブを利用したソファ席を周囲に設置しています。
参加者からは、モニター位置の決め方、コードの収納などについて質問が飛んでいました。参加者同士、「会議室は無線にしたいけれど、なかなか難しい」と意見が一致して盛り上がる場面も。
フランクに課題を分かち合い、解決策を探る座談会
ツアー後は、複数のグループに分かれ、現場のリアルな課題を共有して話し合う座談会を開催。
業務以外のコミュニケーション形成については、「コミュニケーション促進を目的にソファ席を設置したが、長時間の作業に向かないためほとんど利用されていない」「部門間の交流を促すためのワンフロア化だが、対話は増えても協働にはつながらない」といった悩みが口々に吐露され、場は一気に賑やかに。
解決策として、eスポーツスペースの設置や、社長を巻き込んだ対話の場づくりといった特定の場所や仕組み、参加者に依存しないイベントが提案されると、「社内では出てこない案です」と喜びの声が上がっていました。
続いて、「オフィス構築費はコストか、投資か?」というテーマでは、多くの参加者が「デザイン性の高いオフィスは単なる見栄えではなく、実利を伴う投資である」と強調。内装費や電気工事費、家具費が高騰し続ける現在の市場環境のなか、各社がどのようなロジックで経営を説得し、価値を定義しているのか、生々しい議論が交わされました。
オフィスを「経営の力」に変え続けるために
オフィスの設計段階で描いた理想の働き方を実際の行動として根づかせるには、日々の運用が鍵になります。今回のFMconnectでは、パーソルキャリアの先進的なオフィス設計と、運用で直面する課題や試行錯誤が率直に共有され、「完成形を学ぶ場」ではなく「進化の過程を共有する場」として前向きな情報交換が行われました。
パーソルキャリアのオフィスや、参加者同士の対話から生まれた気づきは、それぞれの現場で次の一手へとつながっていくことでしょう。
正解のない領域だからこそ、互いの知見や悩みを持ち寄り、ともに考える。
HATARABAでは、今後もファシリティ担当者のヒントになる有益な場を提供していきます。