“はたらく場所の最適化” を目指すHATARABAが運営する、ファシリティマネジメント担当者のための会員制コミュニティ【FM salon】のインタビュー企画「ZoomUp」。この企画では、ファシリティマネジメントという仕事そのものや、その魅力、面白さについてお話を伺っています。
第5回目にお話を伺ったのは、Ubie株式会社(以下、ユビー)の相澤さん。ユビーのひとり総務として活躍する相澤さん。オフィス移転時にはチームを組み、プロジェクトを推進しています。
―相澤さんのお仕事内容についてご紹介ください。
私は「総務&ファシリティ」のような立ち位置で、総務業務の中に移転や増床といったオフィス関係のタスクがあるというイメージです。ただ、私はひとり総務なので、いざ移転や増床といった大きなプロジェクトを進めるときには他部門のメンバーにも加わってもらい、チームで進行します。移転後の運用や日常的な管理業務は基本的に私ひとりで行っています。
―ユビーに入社される以前から、総務やファシリティの仕事をしてこられたのでしょうか。
実は、前職でも総務を経験してはいたのですが、最初からその道に進んだわけではありません。音楽カルチャーを扱う総合エンタメ会社に在籍し、編集者やディレクターとして、まったく異なるフィールドで働いていました。
総務の仕事に携わるようになったのは、子どもの誕生をきっかけに、働き方を見直す必要が出てきたからです。そこで、同じ会社の中でポジションの変更を願い出て、総務に異動しました。性格的に、人をフォローしたり、表に立つよりも裏方で支える役割のほうが好きなところがあるので、総務の仕事は自分に合っているなと感じました。もっとこの分野でステップアップしたいという想いから、ユビーへの転職を決意した──そんな流れです。

―相澤さんがこれまで携わった移転プロジェクトで、印象に残っているエピソードを教えてください。
ユビーでの前回の移転ですね。ユビーには4つの組織があるのですが、当時はそれぞれのカルチャーが「混ざらない」ことがガイドラインで決まっていて、各組織それぞれに会議室やテレカンブース、休憩場所までを揃える必要がありました。共有スペースを持たずに設計したため、スペースのやりくりがとても難しかったです。
けれどフェーズが変わって、「混ざったほうがいい」となり、レイアウト変更へ。当初は「混ざらない」ことで集中しやすくなるという考えもありましたが、混ざることで得られるリターンの方が大きいという判断です。ベースをシンプルにしておいて本当に良かったと思いました。
―方針転換に戸惑いはなかったですか?
大変ではありましたが、抵抗はありませんでした。オフィスに過剰な思い入れを持たないようにしているんです。ユビーは変化に対してとてもスピーディな会社なので、「変えたほうがいいならすぐに動く」が基本姿勢。思い入れが強すぎると、逆に動きづらくなってしまうと思うので。
―プロジェクトを進めるうえで、大切にしていることはありますか?
私は数字が苦手な文系人間なので、事業推進に携わっているプロダクトマネジメントの方を必ずチームにアサインするようにして、費用対効果の可視化や、私の考えた資料へのツッコミ役を担ってもらうようにしています。

―現在のユビーでのファシリティ業務における変化や、新たなテーマはありますか?
最近では、生成AIの活用が社内でも急速に進んでいて、採用要件にも「生成AIを使いこなせること」が盛り込まれるようになりました。総務としても利活用の幅を広げながら、逆にどうしても残る「物理的な業務」──たとえば郵便物や契約書の処理といったものにどう効率よく対応できるか、そのためにオフィスがどうあるべきかを考えています。
あわせて、会社のフェーズの変化に応じて、ファシリティに求められる役割も変わってきたと感じています。これまでは「コストパフォーマンスの最大化」を重視していたのですが、最近ではコミュニケーションの質や社員エンゲージメントの向上に力を入れるようになってきました。そのため、次の移転では意識するポイントがこれまでとは違ってくるだろうと感じています。
実際、出社推奨日を設けたことで、「せっかく出社するなら皆でご飯を食べながら会話したい」「打ち合わせの機会を増やしたい」といったニーズが自然と生まれてきました。そうした声を踏まえて、コミュニケーションが生まれる場を前提としたオフィス設計も、今後ますます重要になってくると考えています。
―相澤さんにとって、ファシリティ業務の魅力はどんなところにありますか?
もともと引っ越しや内装、インテリアが好きだったので、大きなスケールでそうした仕事に携われるのは楽しいですね。あとは、やはり裏方好きな性格なため、みんなが喜んでいる顔が見られるのが1番のやりがいといえると思います。
社員とのコミュニケーションも楽しいですよ。仕事上の話はしづらくとも、「ここをこうしてほしい」という物理的な話は比較的カジュアルに言ってきてもらえるんですよね。そこから事業の変化や課題に気づけるのも面白さの一つです。たとえば「会議室が足りない」と聞いたとき、その背景に「少人数ミーティングの増加」があると分かれば、「ふたり用スペースを増やそう」とつながっていく。この試行錯誤はすごく楽しいですね。
―逆に、難しさや大変さを感じる場面はありますか?
楽しさには裏側があるというか、やっぱり楽しい反面で難しさや大変さもあるなと感じています。特に、社員からの声すべてに即座に応えられるわけではなく、「事情があって今はできない」と伝えなければならない場面はつらいですね。
ただ、ユビーには「問題点を自分で解消していい」というカルチャーがあるので、総務としての責任は感じつつも、すべての要望を過剰に背負わなくていいという安心感があります。困りごとを伝えてくれたときに、「責められている」と感じる必要がないんです。
他責思考の社員がいないというのは、ユビーの大きな魅力だと思います。「自分でひずみを見つけて、整えていこう」というマインドがあるからこそ、前向きに物事を進められる。もしも他責思考の人が多かったら、私自身もしんどくなってしまっていたかもしれません。
また、ユビーでは生成AIの活用を推進するため社内情報の整理を進めています。移転プロジェクトのような大きな取り組みも、オープンな場でやりとりされています。誰でも情報にアクセスできる環境が整っているので、「なぜ、こう決まったのか」が見える状態になっているんです。関心のある社員は、そうした情報をしっかりキャッチしてくれていますし、「次のオフィスってこうなるらしいよ」と自然に周囲へ共有してくれるような流れができているのもありがたいですね。
―「他責思考な人がいない」と合わせ、素敵な社員の方が多い会社なのだなと感じました。相澤さんが思う、オフィスファシリティに向いている人はどんな人でしょうか。

私自身、ファシリティに向いているタイプかと言われると、そうではないかもしれません。本当に向いているのは、数字に強くて、物事を客観的に見られて、それでいてホスピタリティも持っているような人だと思うんです。
私はというと、共感性やホスピタリティはあるかもしれませんが、数字には弱いし、主観的になってしまうことも多くて(笑)。
だからこそ、自分一人で全部を抱え込まず、「ここはこの人にお願いしよう」とヘルプを出せることが大事だと感じています。オフィスは“みんなが使うもの”なので、ひとりの力ではどうにもできない。協力しながら進めていくことが必要な仕事だと思います。
―ありがとうございました。最後に、相澤さんにとってファシリティとは何か、お話ください。
私にとってファシリティは、まだまだ手探りで模索している領域ではありますが、会社の事業や価値観を空間という形で体現できる仕事だと思っています。
オフィスは、その会社が何を大事にしていて、どこへ向かっていこうとしているのか──そうしたことがにじみ出る場所。だからこそ、組織のカルチャーや変化の兆しを受け取りながら、それをどんな環境として設計していくのかを考えるこの仕事には、大きな可能性があると思っています。
自分が整えた場所で、誰かが働きやすさを感じてくれたり、組織が前に進むきっかけになったりしたら、それはすごく嬉しいことですし、それが、この仕事の一番のやりがいですね。まだまだ学ぶことは多いですが、ファシリティの力を信じて、これからも取り組んでいきたいです。
