企業理念や企業文化といったソフト面をオフィスに体現し、従業員へ浸透させるにはどの様な手法があるのでしょうか。他社のオフィス構築事例を学ぶことで、自社オフィスの改善へつなげてほしいという思いを込めて「オフィスツアー」を開催しています。
本記事は企業アイデンティティを浸透させるためアートを活用した、トヨタコネクティッドの「オフィスツアー」のイベントレポートです。(ツアー開催は2023年2月)
トヨタコネクティッドがオフィスで体現したかった事とは
「限りなくカスタマーインへの挑戦」を理念に、2000年に創業したトヨタコネクティッド。本社は名古屋にあり、創業20周年という節目の年に東京での更なる飛躍とベンチャー連携の強化を目指し、axle御茶ノ水に東京の拠点を移転開設しました。
東京オフィスの移転開設に込めた思いとは一体どのようなものだったのでしょうか?
まずはオフィスファシリティを担当された林様よりトヨタコネクティッドの歴史やオフィスに込めた思いや考え、オフィスができるまでをご説明いただきました。
トヨタコネクティッドの歴史をひも解く過程で再認識した企業アイデンティティ。トヨタコネクティッドのオフィスに込めた思いは、オフィスが企業アイデンティティを浸透させ、一人一人がイノベーションを推進するような場となること。
それらをどの様な形でオフィスに体現したのか、実際にオフィスツアーを通じて学びます。
トヨタコネクティッドの歴史は、1996年にトヨタ自動車で始まった販売店の業務改善活動から始まります。そして「インターネットと自動車事業の融合」をテーマに、「お客様との接点を作る」ことを目的に作られた「GAZOO(ガズー)」が誕生しました。
販売店へ導入した「GAZOO端末」から、更なる顧客満足の向上を目指し開発された「E-TOWER」。「E-TOWER」は全国7000店舗のコンビニエンスストアに設定され、 一躍全国でメジャーな端末となりました。
「E-TOWER」を生産・設置、運用する目的で作られのが「ガズーメディアサービス(現トヨタコネクティッド)」です。
そして20周年を迎えた2020年。
新しい拠点としてGLIP「Global Leadership Innovation Place」が構築されました。
企業の歴史やストーリーを伝え、従業員への企業アイデンティティの浸透を促すためにとった手法が名古屋本社の歴史館でも使用した「アート」でした。
名古屋本社のエントランスにある歴史館には、トヨタコネクティッドの歴史や技術の変容が伝わるように歴代の製品と共にアートが描かれています。創業当時を知るメンバーへ細やかなヒアリングを行い、思い出深いワンシーンを組み合わせた物語のようなアートです。
この名古屋で使用したアートを東京でも活用することで企業アイデンティティを浸透させ、自らそれに基づき行動していくようなオフィスを目指したのです。
東京の拠点は「Global Leadership Innovation Place」の頭文字から「GLIP(グリップ)」と名付けられ、自らがイノベーションを推進する場所というコンセプトの元作られました。
トヨタコネクティッドのアイデンティティを浸透させるウォールアートとは?
東京「GLIP」のエントランスは、名古屋本社と東京をつなぐようなアートが描かれています。「隠れ富士」も描かれてました。
あえて手を加えていない床や天井にも理由がありました。
このように建物自体の歴史も残し、余計な装飾はしない、必要なものは必要な時に、働き方に合わせて変化(改善)させる「未完成なオフィス」にすることで「ここから自分たちで作り、成長させていくんだ」という意思を感じさせます。
執務室内は機密事項もあるため、写真はありませんが、トヨタコネクティッドの思いや理念、信念を自らが感じ取れるような仕掛けが多数ありました。
その一つをご紹介します。
オフィスの天井にランダムに塗られているのは企業ロゴの7色のパーティクル。
実は執務室のある1か所から天井を見上げた時、ランダムに塗られた絵が一つのパーティクルとなって表れるのです。
一つのところにとどまっていては見つけられない、自ら動いて新しい発見がみつけようというメッセージが込められているようです。
実務的な部分では、働き方に合わせ対応できる稼働デスクや昇降デスクを配置し、椅子はリサイクル品を利用し、座面を再生布で張り替えて利用するなど、SDGsも意識したものになっています。また従業員にとってコミュニケーションをとりやすい場も設置する点など、参加者が興味をもって見学されていました。
次は5階へ降ります。
5階はロッカールームがあり、その前に複数のモニターが設置されています。このモニターには、出社時に必ずここを通るということから、従業員と共有したいメッセージが映し出されています。
フリーアドレス制をとっているオフィスということで、参加者の個人ロッカーへの関心度は高く、「従業員からの要望サイズと実際の必要サイズのギャップをどう考えて対応しているのか?」などの質問がでていました。
働き方が刻々と変わるような状況において、個人ロッカーのサイズ適正化は他の会社でも悩ましい事項のようです。
トヨタコネクティッドで実施している「働き方に合わせ変わっていくような物は、サブスクなども活用している」というスタイルに「なるほど!」という声が多くありました。
ロッカールームの横に飾られた絵は、入社1年目から4年目のメンバーが参加したワークショップで描かれたものだそう。
真っ白の用紙に「自分の好きなもの」「自分が考える未来」をテーマに描き、お互いに「なぜ好きなのか」「なぜそう考えたのか」の意見交換をすることでチームビルディングと心理的安全性の向上を図っています。
ベンチャー連携を実施する場として設けられたエリアには「GLIP(グリップ)」に描かれている数々のウォールアートの下絵がそのまま残っており、オフィスを作った軌跡も企業の歴史と同じように刻まれています。
会議室には車のコックピットとそこから見える景色が描かれていました。常にユーザー目線を忘れないように、というメッセージが込められているそうです。
防音対策として吸音パネルが貼ってありましたが、外からも会議室内のアートが見えるように透明なものを選択したそうです。
5階と6階のオフィスをつなぐ階段にもアートが描かれています。
従業員が毎日通るこの場所に、豊田自動織機から始まるトヨタ自動車の歴史と、そこからつながるトヨタコネクティッド創業者の思いを感じながら、ともに新しいモビリティ社会を作っていこうというストーリーが表現されています。
GLIPに描かれているこれらのアートは、従業員が自分の口でお客様へも説明できるように工夫されていました。それぞれのウォールアートを自ら説明することも、アイデンティティの浸透に一役買っているのでしょう。
トヨタコネクティッドの「未完成なオフィス」が伝えるメッセージ
最後に元の会議室に戻ると、会議室の壁に描かれていたアートに新たな発見がありました。
「虹をかける仲間たち」と名付けられたこのアートにだけ色がついている事に気付かされました。
オフィスツアーで見て回ってきたウォールアートは白黒のみで描かれていました。この理由を伺うと、「これまでご紹介したアートはすべて歴史を描いているのでモノクロになっています。こちらのアートは私たちが描く未来を表しているのでカラーにしています。我々が描く未来はこの絵のように、子供たちが思わず走って駆け寄りたくなるようなそんなワクワクした未来を作っていく、という思いを描いています」とのお話でした。
実際にオフィスを回った後は質疑応答や自社の抱えるオフィス課題について意見交換などを行いました。
従業員へのカルチャーの浸透、企業メッセージの発信方法、出社や働き方の考え方、従業員からの要望をどの様にオフィスに反映させていくのか、社内アンケートの取り方など話題は尽きません。
「かっこいいオフィスを作るつもりはなく、永遠に未完成だからこそより良いオフィスを目指し挑戦できる」というトヨタコネクティッドのオフィスから、参加された方々も様々なメッセージを受け取ったのではないでしょうか。
今回ご紹介したものはオフィスツアーの一部です。当社ではオフィスツアーを定期開催しています。オフィスツアーを通じて、オフィス構築の事例を学び、総務の交流の場を提供しています。
新しくファシリティの担当になった方、オフィス構築の経験がある方にも知識や経験をより深めていただけるイベントです。