“はたらく場所の最適化” を目指すHATARABAが運営する、ファシリティマネジメント担当者のための会員制コミュニティ【FM salon】のインタビュー企画「ZoomUp」。この企画では、ファシリティマネジメントという仕事そのものや、その魅力、面白さについてお話を伺っています。
第4回目にお話を伺ったのは、株式会社マネーフォワード(以下、マネーフォワード)の田中友貴さん。ファシリティマネージャーとして同社に転職し、オフィス構築や運用業務に携わっています。

建築・対話・哲学。「自分らしさ」が自然に重なる仕事
Q.田中さんにとって「ファシリティマネージャー」とは何かをお聞かせください。
私にとってファシリティマネージャーは「自分が一生かけてやりたいことが詰まっている仕事」です。
建築が好きな自分にとって、オフィスという空間に携われることは純粋に楽しいですし「人との対話を大切にしたい」という自身のテーマとも自然に重なります。また、もともと哲学にも関心があり「なぜそれが必要なのか?」といった抽象的な問いを実務の中で考え続けられるファシリティマネージャーの仕事は、まさに自分にフィットする職業だったと思います。
「これから何を極めるか」を考え、選んだ道
Q.田中さんのお仕事内容とキャリアについて教えてください。
現在は、ファシリティマネージャーとして、拠点の新設や移転、増床といった業務を担当しています。高専で建築を学び、大手企業のオフィス工事を専門にやる子会社で現場監督としてキャリアをスタート。航空会社の建築部門を経て、ワーキングホリデーでヨーロッパの建築を見て回ったのち、建築ベンチャーや前職となる大手ITベンチャー企業に就職しました。
30歳を迎えるタイミングに「これからのキャリアで何を極めたいか」と自身の棚卸しをした際、自然と思い浮かんだのがファシリティマネージャーの仕事でした。航空会社時代にファシリティマネジメントという言葉に初めて出会い、賃借している施設の契約管理業務にも関わる中で資格も取得していました。当時の経験がずっと頭の片隅に残っていたんです。「これからの自分にとって何が一番やりたい仕事か」を考えたとき、改めてこの道を選ぼうと決意し、縁あって前職に入社しました。
そうして入社した前職のITベンチャーでは、毎月100人単位で社員が増えるなか、拠点の新設・移転・統廃合に奔走する日々を経験。現場のスピード感に鍛えられながら、インハウスのファシリティマネージャーとしての実践を積みました。

印象に残っているプロジェクトから得た学び
Q.ファシリティマネージャーとして仕事をするなかで印象的だったプロジェクトと、そこから得た学びについて教えてください。
ひとつは、前職で特定部門の専用オフィスを担当したプロジェクトです。インハウスのファシリティマネージャーとして経営層の意見を設計に組み込む初めての挑戦でした。スピード感や調整の難しさに圧倒されながらも、非常に多くの学びもありました。
その経験を経て、ミーティングでの「聞く姿勢」が大きく変わりました。以前は自分の中にある“正解”を前提に話を聞いてしまい、すれ違いが生まれてしまったこともありました。いまでは意識的に相手の背景にある立場や事情を想像しながら、フラットに話を聞くようにしています。マネーフォワードでは、優秀な仲間と意見を交わしながら、ひとつのチームのような感覚でオフィスづくりを進めています。
ふたつ目は特定のプロジェクトというよりも、マネーフォワードに入社してから取り組んできた一連の業務が印象に残っています。1月に入社してすぐ『席が足りない』という課題に向き合うことになりました。さらに4月には社員が大幅に増えることが決まっていて、短期間で増床か移転かの判断を迫られました。採用ペースを踏まえて内覧や物件の検討を重ねた結果、館内での増床が可能と分かり、プロジェクトが始動。今ではその一部がすでに稼働しています。
実働1年ですが、体感としては「3年分の密度」でしたね。(笑)

こだわりを尊重し、空間に調和する
Q.現オフィスもこだわりを持って作られていると思うのですが、田中さんが入社後の増床にあたってそのこだわりに合わせる難しさはありましたか?
多少の難しさはありましたが、それを苦に感じたことはありませんでした。入社前に作られたオフィスには空間に込められた想いや意図があると感じていたので、当時のオフィスづくりに関わったメンバーと積極的にコミュニケーションを取り、その背景を丁寧に汲み取るよう心がけました。
専門知識を元にオフィス作りを行うだけであればひとりでもできますが、こだわりがあるオフィスの場合それでは良いプロジェクトになりません。マネーフォワードのような文化や価値観がしっかり根づいている組織では「一人で完結させるやり方ではうまくいかない」という感覚を、早い段階で持っていました。
Q.ファシリティマネージャーの仕事の面白さはどういったところにありますか?
マネーフォワードにはカルチャーやデザインを担う部門があるため、オフィス設計時に「なぜこの空間をつくるのか」といった抽象的な議論ができるのが大きな魅力です。
たとえば、オフィスを新たに作る時には「どういう体験を提供したいか」から議論が始まり、「そのためにはどんなレイアウトが必要か」「必要なスペースの数や配置はどうか」などを社内で話し合います。以前は設計者任せだった部分を社内で主体的に検討できるのは面白いですね。
Q.仕事を進める上で、大切にしている姿勢や心がけを教えてください。
もっとも大切にしているのは「人の話を聞くこと」です。社内外問わず、まずは相手の意図を理解することから始めるようにしています。
社内ではSlackにオフィス関連の発信チャンネルを設け、意見を募ったり、アイディアを投げかけたりしています。雑談や日常の様子からも声を拾うよう心がけていますし、難しい要望に対しても理由を添えて丁寧に対応しています。また、オフィス内を歩きながら社員の様子を観察して気づきを得ることも多いですね。

両極の視点を行き来し“間”を楽しむ
Q.ファシリティマネージャーの仕事の魅力や難しさ、そして求められる視点について、どうお考えですか?
この仕事の魅力は「経営と現場」「短期と長期」「抽象と具体」など、両極の視点を行き来する“間”を楽しめることにあると感じています。もちろんそのバランスを取るのが難しさでもあります。現場にとって良いことが経営上は実現しづらい場合もありますし、逆も然りです。それでも私は、その葛藤も含めて楽しめているので、この仕事が好きなのだと思います。
Q.どうすれば、そのような「両極の視点」を持てると思いますか?
ファシリティマネージャーに至るには、総務出身の人とサプライヤー出身の人の大きく2つのルートがあると思っています。
総務出身の方なら、たとえば電球を交換する作業ひとつにも「そもそも交換がいらなくなるには?」と根本的な視点を持つことで、広い視野が育まれていくと思います。
サプライヤー出身の方は、空間を“作る”だけでなく“使われ方”まで想像してみることが、長期的な目線を持つきっかけになるのではないでしょうか。
最後に、これからファシリティマネージャーを志す方にメッセージをお願いします。
まずは「楽しい仕事だと思いますよ」とお伝えしたいです。あと、個人的には若いプレイヤーが増えるといいなと思っています。現状では、経験を積んでからキャリアのゴールとして目指す人が多い職種な印象があり、そのため年齢層が高くなりがちだなと感じているんですよね。もっと若いときから飛び込んできてくれる方が増えるといいなと思っているので、ぜひ興味がある方は挑戦してみてほしいです。
