数々の仕事を経験したなかで、1番おもしろくやりがいのある仕事。
ファシリティ担当者が語る「真っ白なキャンバスに絵を描く」仕事の醍醐味

  • FMsalon

“はたらく場所の最適化” を目指すHATARABAが運営する、ファシリティマネジメント担当者のための会員制コミュニティ【FM Salon】のインタビュー企画「ZoomUp」。この企画では、ファシリティマネジメントという仕事そのものや、その魅力、面白さについてお話を伺っています。

第3回目にお話を伺ったのは、株式会社MIXI(以下、MIXI)の嵯峨さん。嵯峨さんは、はたらく環境推進本部でファシリティ業務に携わっています。

―嵯峨さんのお仕事内容についてご紹介ください。

メインは賃貸借契約や不動産管理、設備の整備といったオフィスファシリティ業務です。

実は、オフィスのファシリティ業務もMIXIに入って初めて携わりました。それまでのキャリアは多岐に渡っていて、新卒時代はアニメーション会社の総務人事部で採用業務をメインに経験し、そこから国産腕時計メーカーに転職した際はIT関係の仕事に就き、サーバー管理や内製プログラムの開発を行っていました。

そこからは、「若いうちに経験しておこう」と思い、フリーランスにも挑戦しました。そのあとに出版系の小さな会社に入社し、総務に近い何でもやる部署に所属していました。その後がMIXIですね。

私を今の会社に誘ってくれた方は、新卒で入ったアニメーション会社のときの上司だったんです。私がMIXIに入社したのも、もう一度その上司と働きたいという気持ちもあったからです。

―嵯峨さんのご経験のなかで印象に残っているプロジェクトは何でしょうか。

HATARABAさんにもご協力いただいた仙台のサテライトオフィスのプロジェクトは印象深かったものの1つですね。それまでもサテライトオフィスの構築自体は行ってきたのですが、渋谷近辺ばかりで、遠方での構築は初だったんですよ。

地域によって習わしや慣習が違う部分がありますし、そもそも渋谷のように気軽に現地を見に行くことができないというのも大きな違いです。そのため、これまで以上にきちんと要件を固めて取り組むやり方に変えなければなりませんでした。

加えて、同時に渋谷でも2件サテライトオフィスを借りなければならなかったのもハードさに拍車をかけましたね。渋谷スクランブルスクエアの本社オフィス規模となると、プロジェクトを進めるのに2、3年の時間を要します。本社ができあがるまでに、当時使っていたオフィスが手狭になり、新たに拠点を増やす必要に迫られたんですよね。そのため、3拠点を同時に進めなければなりませんでした。1週間毎日定例会議みたいな状態で、「今話しているのはどのオフィスの話だったっけ?」と混乱するほどでしたね。

―複数プロジェクトを完遂するため、意識していたことはありますか?

メンバーは私だけではないため、「ここは私が見る」と割り切って、残りを細分化して「ここを見てくれ」とメンバーに頼んでいました。最終的な取りまとめは私がするものの、枝葉の部分は任すと。ただ、情報共有をしっかりしなければ違った方向に進んでしまうため、そこは留意しましたね。関わる人が多くなればなるほど、きちんと情報を共有するのが難しかったです。

あとは他部署との関わり方も意識していましたね。例えば、経理部門に仕事をお願いする場合、法務の人間が賃貸借契約書を見るときにどこをチェックするのかを知っているので、事前に必要な箇所を確認したうえで「ここは事前に確認して調整していますので、その他の箇所を見てください」とOKをすぐにもらえる状態にしていたんです。やり取りをスムーズにするために、対面でなじみの人を作っておくという工夫もしていました。

―本社オフィスのプロジェクトに関してはいかがでしょうか。

それまでにサテライトオフィスをいくつか作っていたので、そこで経験したことが本社の統合移転プロジェクトに活かせたと感じています。オフィスをつくる前に大切なのは、これまでのオフィスで社員がどうオフィスを使っているのかを観測して課題を見つけ、改善点を見つけて活かすことかなと思います。

サテライトオフィス作りでの反省点を活かせたものの1つは、座席ですね。急成長を遂げていたため、席を急に増やさなければならない事態が頻繁に起きていたのですが、そうなるとその都度の対応になるため、1つのオフィス内で環境に差が生まれてしまうんですよね。どこに行っても同じような環境で働けるよう、最初から席数を最大値で用意し、あとから増やすことができないようにしました。

移転前にやることもたくさんありますが、個人的には移転後のほうが忙しいと感じています。「終わったー!」と気を抜きたくなりますが、移転にはもちろん費用がかかるので、数字的にみるとどうなのか?想定とのズレの有無があるのか、自分の言葉で経営層に説明できなければならないんですよね。そのプレッシャーの方が、移転前の責任感よりも高いかなと。必要に応じて改善策を講じることもありますしね。

―移転後に実際に何か手を加えられた例はありますか?

来客用会議室のテーブルにある電源ケーブルですね。移転前は既製品のふたの付いたものを使っていたのですが、社内オフィスエリアではふたのないオリジナル品を使っていて、その評判が良かったんです。汚れづらいし使いやすいと。そこで急遽、来客用会議室にも同じものを入れようとなり、今に至っています。使い勝手を上げてストレスを減らしていくことを意識していますね。

―社内アンケートなどを取られているのでしょうか。

移転直後にCOVID-19の流行もあり、すぐにアンケートを取ることができませんでした。タイミングを逸してしまったため、なじみの人に聞く、使っているシーンを見るといった形で情報を集めるようにしています。定点観測していって、「これはいける」と確信を持てたときに取り掛かるケースが多いですね。

運用課題は、「思ったように使ってもらえない」ケースと「ルールを守ってもらえない」ケースとの2つに分かれます。このうち、後者を特に大事にしていて、部署としてもしっかり目を行き届かせるようにしています。モラル的に問題があるならきちんと指摘をする場合もあります。オフィスの美観維持は社内の話だけではなく、ビルの管理会社や取引先様の印象も左右するので重要視しています。実際、「きれいに使ってくれている」とビルの管理会社から仰っていただいています。

社員の皆さんがきれいに使っているおかげで、ビルの管理側とも円滑にコミュニケーションができます。そういったことの積み重ねがあって信頼関係が構築されていくのだと思います。そのためにも、我々が矢面に立ちしっかりと言うべきことを言う、を徹底し続けなければと思っています。ルールは時になし崩し的に形骸化してしまうものだと思っているので、移転を機に、同じことが起きないよう明文化できるものはし、部署内でもルールを浸透させ、誰に聞かれても同じように応えられるようにしました。

一方、使ってもらえていない問題の解決には、「活用されていない」と示せる定量データが必要です。これは正直今の課題ですね。

―ファシリティ業務で難しいことは何でしょうか。

意見をまとめることですね。メンバーそれぞれに意見があればいいほうで、「どちらでもいい」が多いときが本当に大変です。大半が「どちらでもいいです」だと、意見を述べた人がプレッシャーを感じてしまいますから。

―嵯峨さんにとって、ファシリティとは何でしょうか。

携わる前は、「よくわからない言葉だな」と思っていました。

今思うのは、ファシリティとは、ピースの形が決まっているパズルではなく、真っ白なキャンバスに絵を描くみたいな仕事だと思っています。

「ここに椅子を置いたらどうだろう」と考えて置いてみて、動線上でうまく使われているところが見られるとうれしい。選択肢が無限にあるなかで、何ができるかを考える仕事ですね。

リモートワークが普及したことで、オフィスがなくとも成立させようと思えばできる時代になりました。そうしたなか、あえてコストを払ってオフィスを維持する価値や意味を見出すことが我々の使命だと思っています。出社してきた社員が「今日オフィスに来てよかった」と1個でも思ってくれる経験を持ち帰ってもらえる場にしたいですし、しなければならないと考えています。理想は、社員の皆さんが「オフィスがこうなったらいいな」と感じる間がないくらい、我々が情報を収集し、課題に対して先手を打つこと。会社で働く別の部署の方が、その役割に徹して最高のパフォーマンスを発揮できる環境を整備したいです。

―最後に、ファシリティに興味のある読者にメッセージをお願いします。

バックボーンの違う社員がつながる場作りを任せてもらえるのがファシリティの魅力です。さらに、そんな仕事が未経験からでもできるという点も良さですね。私のように、30代の未経験からでもできる。必ずしも建築経験など専門的な経験、知識がなければいけないということもない。自分の「こうしたい」という思いさえあればなり得るポジションだと思っています。

ファシリティはなかなか新卒就活時の選択肢には出てこない職業かもしれませんが、もっと知名度が上がってくれたらうれしいですよね。過去、いろいろな仕事をしてきましたが、私にとっては今の仕事が1番魅力的でおもしろいですし、やりがいもあります。こんなにおもしろい仕事はなかなかないと思っていますので、興味のある方は、ぜひチャレンジしてみてほしいです。

―嵯峨さん、お話を聞かせていただきありがとうございました!

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