「カメラのキタムラ」や「しまうまプリント」など多種多様な事業を手掛けるキタムラ・ホールディングス グループ。実店舗・ネット・リユースなど、多角的に事業展開しています。2019年、キタムラ・ホールディングス設立後に突入したコロナ禍の中で分散している拠点を集約しました。その後、創発的なオフィスづくりに取り組む方針を定めた同社。物件探しやプロジェクト進行を株式会社HATARABAがご支援しました。移転プロジェクトの責任者を務めた株式会社キタムラ・ホールディングス執行役員 人事部 部長 新井様、総務部 部長 今野様にお話を伺いました。(以下、敬称略)
背景・課題
- ・ホールディングスを設立し、分散している拠点を集約したが、人員増でオフィスキャパシティがひっ迫していた
- ・キタムラ・ホールディングスのグループらしさ、各社の熱量、変化に対応できるフレキシビリティあるオフィスにしたい、というコンセプトを導いたが、それに叶う場所を見つけることに苦戦していた
ポイント
- ・バラエティ豊かな物件を見ながら、イメージを具体化。最上階から4フロア連続で契約する形に
- ・最上階にギャザリングエリアを、各フロアにギャザリングスペースを設け、拠点外の従業員も使える居場所を用意
- ・エントランス、来客用会議室で会社らしさを表し、会話の種に
抽象的な思い・考えから言語化し、「一体感」重視のコンセプトに
お二人の業務内容、今回の移転プロジェクトで担われた役割についてお聞かせください。
新井
2024年4月に人事総務部が人事部と総務部とに分かれ、私が人事部の部長を、今野が総務部の部長を務めています。移転プロジェクトチームはトップに社長が、主要メンバーに人事、総務、デザイン、広報、ITの人間がおり、我々が責任者を務めました。コアメンバーは10名ほどで、プロジェクトの進行に伴い人数が増えていった形です。
今野
株式会社キタムラ・ホールディングスと株式会社キタムラの総務を兼任し、連携しながら動いています。移転プロジェクトに関しては実働部分を担当しました。
新井
物件選定から始まり、内装、引っ越しと後半につれて今野のタスクが増えていきました。
移転の経緯についてご紹介ください。
新井
ホールディングス化したことを機に拠点を集約したいというニーズがありました。各本社機能は2021年に新宿に集約したのですが、そこから人員の増加が進み、さらに、コロナ禍による影響で減っていた出社率が、情勢が落ち着くにつれ戻ってきたことから、キャパがいっぱいになり、あふれてしまっていたんです。
増床する手もあったのですが、働き方が変わるなかで新しいオフィスのあり方を模索したい、創発的なオフィスにしていきたいという思いから、移転の方向性で話を進めていくことになりました。
HATARABAがご支援することになったきっかけ、お選びいただいた決め手は何だったのでしょうか。
新井
お二人の印象が良かったのは大きかったです。あとは、物件だけではないトータルなご提案をいただけたこと。幅広くサポートしていただけるのはありがたいなと思いました。人事部としての日常業務も抱えながら、限られた人数で移転というビッグプロジェクトを進めなければならないのは、どうしても大変でしたから。
HB西村
要件定義に時間を多く使いましたね。コンセプトを重視されていた印象もあります。ただ床面積を増やせれば良いのではなく、どのようなオフィスにし、どういう発信をしていきたいのか、一緒に考えたことを印象深く覚えています。
新井
移転には当然お金がかかりますから、経営陣が移転する意義を感じられ、移転しようというモチベーションを持てなければなりません。経営会議に出す前段階で押さえておくべきポイントを一緒に整理していただいたり、初期費用含めてどうすれば話がスムーズに進むのかを考えていただいたりしました。
コンセプトについても、大切にしたい思いはありながらも、最初からこちらに明確なものがあったわけではないんです。まずはふんわりと抽象的な要件をお伝えし、それに合う物件を出していただきました。物件を見なければイメージが湧きづらいため、ご提案いただいた物件を経営陣に見てもらうことで徐々にコンセプトが固まっていったという感じです。
HB菊池
一棟を丸ごと借りる案や、あえてターミナル駅から外れた物件など、バリエーションを多めにご提案させていただきました。
新井
一棟借りの反響は良く、実現したいという話になったんです。ただ、実際はなかなか条件に合うものがなく、紆余曲折がありました。面積が少し狭かったり、逆に大きすぎたり、広さは良いものの立地がいまいちだったり。そこから、「じゃあ、なぜ一棟借りに魅力を感じるのか」に立ち返り、「自分たちのオフィス」を感じられるかどうかであると捉え、別の方法は無いか、と選択肢をスライドしていきました。
今野
以前のビルは建物こそ集約できたものの、入居フロアがバラバラで、一体感を得られにくい状態だったんです。
新井
一棟借りは条件的に厳しい。じゃあ広大なワンフロアなら実現可能なのかと考えたところ、こちらもなかなか厳しい。であれば、フロアを連続して入れる物件ならいいのではないか。そこでご提案いただいたのが今の物件でした。
大きかったのは、最上階から連続で4フロアに入居できることです。「最上階から」がポイントでした。あとは立地。結果的に前のオフィスと通勤経路がまったく変わらず、それどころかさらに便利になる物件だということで、こちらに入ることになりました。
物件のご提案だけではないサポートに魅力を感じていただいたとのお話でした。どのようなサポートを行ったのでしょうか。
HB西村
経営陣の方々に提示する資料の作成、情報の整理、伝わりやすいストーリーの考案などを行いました。他社事例の整理など、御社が社内で使うための資料作成が多かったですね。
新井
情報の整理に関連した話でいうと、以前のオフィスの退去スケジュールを立てるところでも助けていただきました。同一ビルながら増床を続けてきた経緯もあり、契約が複数あるため、どのタイミングで出るのが1番出やすく、また経済合理性があるのかの判断が煩雑だったんです。
HB菊池
契約書を拝見し、他社事例も参考にしながらスケジュールを詰めていきました。
新井
かなり細かいところまで調整していただき、ありがたかったです。あとは交渉面ですね。私も今野も移転プロジェクトに携わるのが初めてだったため、よくわからない部分も多かったなか、安心してお任せすることができました。
HB西村
そのほか、他社様と比較して感じられた違いはありますか?
新井
提案パターンが広く、こちらの意図をくみ取っていただけたなという印象が強いです。
今野
4社とお話をしてHATARABAさんに依頼したのですが、お二人にはガツガツしたザ・営業というよりも、一緒に考えていただける印象を抱きました。こちらに希望条件がある以上、どうしてもご提案いただける物件は似通ってきます。不動産会社やオーナー様との付き合いの有無や付き合い方などに違いが表れるのかなと感じましたね。
新井
フラットに情報をいただける印象があり、いろいろな情報をいただけたのは勉強にもなりました。そのため、最後の意思決定がスピーディーにできたのかなと思います。
会社らしさを表したエントランスを始め、従業員が働きやすいエリアづくりを
今回のオフィスでこだわったポイントをご紹介ください。
新井
弊社らしさを感じられるような工夫を施しています。まずは会議室名です。社内公募をして決めまして、F値を会議室名にしました。
新井
扉に付けているマークもF値に合わせてサイズが違うんです。「覚えられないのでは」という意見もあったのですが、カメラを扱う人には分かるだろうし、むしろ覚えていってもらいたい、と判断しました。窓のある明るい部屋からぐるりと回るようネーミングしていますしね。そのF値で撮った写真を会議室内に飾っています。
新井
エントランスはフィルムをイメージした内装デザインにし、自分たちらしさを表しました。古いものも価値がありますが、テクノロジーも大切です。そんなノスタルジー×テクノロジーを体現したオフィスにしてもらいたいと希望しました。あまりない掛け合わせのため、コンペに参加した内装業者さんもやりがいを持ちつつも頭を悩ませていました。
今野
エントランスには歴史的に名品と呼ばれるカメラを飾りました。流している有線はサウンドマスキングの役割も担っています。オフィス構築にあたっては、ディスカッションやヒアリングをした内容を新井が取りまとめ、そこから必要なもの、重視すべきものを話し合いながら決めて形にしていきました。
新井
移転に対するトップの期待値が高く、ただ移転するだけでは十分ではなかったんです。ミッション・ビジョン・バリューから紐解き、熱量が上がり、従業員が活躍できるオフィスにしたいという思いが目指すべき指針になりました。見栄えがきれいなオフィスにするだけではなく、現状の課題が解決されるかどうかが重要です。また、経営陣と実際に働く従業員では、課題の優先順位も異なります。各現場のキーマンと急ピッチでコミュニケーションを取りながら進めていきました。
今野
従業員が安心安定して働くための課題の1つは、会議室不足でした。また、特定のグループ会社に偏って利用されているのも不満につながることがわかったため、グループ会社専用で使えるよう執務室内に優先会議室を作ったり、来客用会議室を別にしたりと工夫しました。
新井
もともとフリーアドレスなのですが、フリーアドレスは実のところフリーではないよね、というのが我々の実体験からの気付きでした。どこに座ってもいいというルールであっても「あの席はいつも使っている人がいるから」と躊躇が生まれるといったこともありました。
新井
そこでこのオフィスでは場所のゾーニングを行いました。まずは個社としての一体感があって、次にグループ全体の一体感も生まれてくると考えています。ただ、最上階は完全にフリースペースにしていまして、新宿オフィスで働いていないメンバーが訪れた際に使える場所としても活用されています。
最上階は「ギャザリングエリア」だと伺っています。「コミュニケーションエリア」や「共有スペース」ではないんですね。
新井
単に人が集まってコミュニケーションを取るための場所ではないため、良いネーミングがないか探していたんです。結果、内装会社さんからのご提案にあった「ギャザリング」を選びました。
新井
個社とグループにはそれぞれ課題があるのですが、並列して同じように扱ってしまうと、どうしてもグループ優位になってしまうと思っているんです。グループとしての一体感を大切にしたいのはもちろんですが、個社ごとの一体感も大切にしてもらいたいという思いで、個社フロアにもギャザリングスペースを設けました。
移転後の反響はいかがですか?
今野
通勤の利便性が上がり、新宿駅から地下道を歩いてこられるようになったことで、オフィスに来やすい雰囲気が醸成されているように感じます。エリアを作りつつ、一旦は会社ごとに分けているのですが、「あの場所を使ってみたいから」と別会社の人が出向いていたり、デザイン面からあえて高低差を付けた机を並び替えてレイアウトを変えてみたりと、オフィスの楽しみを感じてもらえているのではと思っています。出社したいと言ってもらえるオフィスを目指していたため、ひとまず形にできたのではないかなと思っています。
新井
グループアドレスにしてしまうと、他のフロアに足を運びづらくなります。そのため、オフィスを使う人向けのハウスルールにも「他のフロアと交流していきましょう」と記しました。
今野
とはいえ、やはり「他のフロア、エリアに行きづらい」という認識がないわけではありません。意図的に交流を生むため、郵便トレイの場所を絞るなど、動線を工夫することで人の行き来があるようにしています。
社外の方からは、やはりエントランスの映像が好評です。カメラも飾っていますし、冒頭10分はエントランスの話で盛り上がれます。フィルムを扱っている会社だと印象付けられる場所として、上手く機能していると思います。
移転時の感動は長続きしない。「自分たちのオフィス」と愛着を持って過ごせる施策を
今後の展望についてお聞かせください。
新井
前のオフィスで課題となっていた部分を改善できたため、喜んでくれるだろうなとは思っていましたが、ありがたいことに思っていた以上に喜んでもらえたなという印象です。ただし、感動は長続きはしません。いくら素晴らしいオフィスを作っても、結局のところオフィスは箱でしかありませんから、数ヵ月で新鮮さがなくなってしまうだろうと思っています。
ここからは、どうすれば自分たちのオフィスとして上手く活用していけるかを考えるフェーズですね。「こんなことをやりたい」と企画アイディアを言いやすい人事・総務になることが今の目標です。9月頭に移転後初の社内イベントを開催してから、個社の懇親会やグループ横断のプロジェクト、業務終了後に集合してスポーツ観戦など、様々な用途で活用しています。今後も良いイベントを増やしていきたいですね。
今野
総務も分散して仕事をしていたところ、移転により同じ場所で働けるようになり、所属会社の総務業が1つになりました。「ここにいる」となったことで、声をかけやすくなったのではないかなと思っています。すぐに行動できる環境が整ったので、困りごとがあれば気軽に声をかけてほしいです。
「自分たちのオフィス」と言ってもらい続けるには、きれいさを維持することも必要です。きれいさの維持は総務だけでは叶わず、従業員の皆さんの協力も必須。上手く運営していけるよう、今後も試行錯誤を続けていきたいです。
会社概要
- 会社名
- 株式会社キタムラ・ホールディングス
- 移転場所
- 東京都新宿区西新宿6-3-1 新宿アイランドウイング13-16階
- 設立
- 2019年2月
- 従業員数
- 7,254人 ※パートアルバイト 4,745人含む ※2024年3月31日時点
- 企業URL
- https://kitamura-group.co.jp/
- 取材
- 2024年8月
取材・文:卯岡 若菜 撮影:竹井 美砂子