外資系企業の日本法人で移転の決議がなされた場合、本国の承認を得て予算を獲得することが最優先事項です。移転の意義を説明し、ファシリティコストを理解してもらうプロセスには、想像以上に労力がかかるもの。しかも、スペースや環境の問題などで移転が急務であれば、承認後すぐに移転を実行できるよう、説得と同時並行で移転先を探さなくてはなりません。
ユーロフィン日本環境株式会社の東京事業所移転プロジェクトは、こうした外資系ならではの複雑な決まりごとと移転条件の難度の高さによって、暗礁(あんしょう)に乗り上げかけていたといいます。
株式会社HATARABAでは、縁あってお声がけいただいた同社のプロジェクトを途中からサポートし始め、ユーロフィン日本環境株式会社で初となる大型移転の成功に貢献しました。
「株式会社HATARABAさんとざっくばらんにものを言い合える関係を築き、仲間として共走できたことが大きかった」とプロジェクトを振り返る大杉一喜 取締役 兼東日本環境事業部事業部長、加留部大基 東日本土壌事業部/西日本環境事業部 事業部長に話を聞きました。(以下敬称略)
背景・課題
- ・築30年を越えた東京事業所オフィス環境の改善
ポイント
- ・グローバル承認のハードルをクリアすること
- ・移転条件の取捨選択
- ・オーナーとの話し合いによる好条件の実現
従業員満足度の向上に向け、オフィス移転は待ったなしだった
――まずは、御社の沿革と事業内容からお聞かせください。
大杉
我々は、食品や製品、医薬品など、幅広い分野における分析・検査サービスをグローバルに提供するユーロフィングループの子会社です。1974年に設立された日本環境株式会社が母体で、2012年4月の合併でユーロフィングループ傘下となり、現在の社名に変更しました。
加留部
もともとのスタートが環境領域であることから、ユーロフィングループの中では水質、土壌や大気等の環境領域に特化して現地調査、試料分析を行っているのが当社の特徴です。
身近なところでいうと、私が管轄する土壌事業部が行う土壌汚染調査などがわかりやすいかもしれません。調査契機の一つに不動産売買にあたって、対象地の土壌に法律に定められている汚染物質が含まれていないこと、あるいは基準値を超えていないことを確認するために行う調査で、土地の資産価値を算出する目的で調査の依頼を頂きます。
その他にも国や自治体が行っている土地の開発事業などにおいて、土壌の環境への影響を評価するために、当社が調査・分析会社としてプロジェクトに参加することもあります。
――今回の移転は、お2人がリードされたと聞きました。移転の目的を教えていただけますか。
加留部
以前の東京事業所は駅から遠く、建物は築30年で老朽化が進み勤務環境が良いとは言えませんでした。オフィス環境は従業員満足度に直結しますから、移転は喫緊(きっきん)の課題だったんです。また、事業規模を更に拡大する上で移転を機にブランディングも向上させたいと考えていました。
大杉
しかし、外資系の場合、大きな金額が動く意思決定に際しては本国の承認を得なくてはなりません。客観的に見て明らかに移転が急務であっても、私たちだけで決めるわけにはいかないのです。
そこで、承認を得るための説得と並行して、承認後すぐに移転を実行できるよう移転先を探し始めました。注意したのは、社内に移転の話が漏れないようにすること。万が一承認が得られなかった場合に、従業員をぬか喜びさせることになりかねないからです。
行動の隠密性とかけて、移転プロジェクトは「NINJAプロジェクト」と命名しました。「NINJA」は外国の方にも引きがよく、移転のメリットを説く際にも役立つネーミングなんですよ。
――移転先の選定にあたっては、どのような条件を出されたのでしょう。
大杉
出した条件は、オフィスと倉庫を同じ場所に一棟で移転できること、約30台の社用車を管理できる駐車場があること、従業員満足度・ブランディングが向上する環境の3つです。
加留部
プロジェクトがスタートしてすぐ、大手の仲介会社さんに声をかけました。比較的簡単に決まるだろうと思っていたんですが、実際はなかなか見つからなくて…。
いくつか出していた条件のうち、「オフィスと倉庫の一棟貸し」と「社用車の台数分の駐車場確保」には広々とした土地が必要で、ある程度駅から離れざるを得ない。すると、「従業員満足度の向上」が叶えられない――というジレンマでしたね。
あちらを立てればこちらが立たずで、プロジェクトをいったんストップせざるを得ませんでした。
それで、知り合いのデザイン会社の営業さんに会ったとき、ぽろっと「実は移転を考えているんだけど、ちょっと苦戦しているんだよね」と打ち明けたんです。その方が紹介してくれたのが、株式会社HATARABAさんでした。
株式会社HATARABAの参画で、移転プロジェクトが一気に前進
――株式会社HATARABAが加わったことで、プロジェクトに変化は生まれましたか?
大杉
今振り返ると、最初にWebで打ち合わせをした段階で腹を割って話し、フラットな信頼関係を醸成できたのが大きかったと思いますね。「ああでもない、こうでもない」と言い合えるパートナーとして、最後まで並走してもらうことができました。
グローバル承認のハードルをクリアするためにこちらの無理なお願いを聞いてくれたり、不動産業界ならではのやり方を教えてくれたりしたこともありがたかったですね。
加留部
最初から強気で「必ず見つけますよ」と言ってくれていましたよね。実際、ニーズを伝えてからのレスポンスが速く紹介してくれる件数も多かったので、非常にやる気を感じました。
弊社:西川
オフィス探しに苦労していると伺ったので、とにかくなんとかしたいという一心でしたね。
弊社:島袋
「オフィスは良いけど倉庫が今一つ」という場合や、「倉庫は満足だけどオフィスがもう少し」という場合は忌憚(きたん)なく言っていただいて、できるだけ早く代替案を出すことを心がけていました。
加留部
数多く内覧する中で印象的だったのは、島袋さんのきめ細かな心遣いです。他社さんからも情報が送られてくるので、内覧しに行く物件の情報が整理しきれなくなるんですよ。
他社さんでよくあるのは当日印刷したものを渡してくれるパターンですが、島袋さんは前日までに全部情報を整理して、内覧の順番通りにPDFでデータを再送してくれました。ざっくばらんな部分と、配慮の行き届いた部分のバランスが良く、信頼して任せることができました。
――現在のオフィスの決め手はなんだったのでしょう。
大杉
迷っている物件が2件あったんですが、最後の最後で今のオフィスを紹介してもらって。オフィスと倉庫は別の場所になりますが、オフィスは綺麗でフロア面積もかなり広く、駅から徒歩7分ほどの好立地です。これなら従業員満足度もブランディングも向上できると思いました。倉庫もオフィスから車で10分の近隣物件を紹介してもらえたのも大きかったです。しかも、ハタラバさんとオーナーさんとの交渉のおかげで、オフィス敷地内の駐車場を社用車の台数分確保できると聞いて即決でした。
オフィス環境の改善により、採用にも好影響が出始めた
――移転してまだ間もないと伺っていますが、こだわりのポイントなどがあれば聞かせていただきたいです。
加留部
レイアウトは従業員が働きやすいスペースの確保、気軽にコミュニケーションが取れるようにフリースペースの充実化を図りました。
内装は基本的に信頼できるデザイン会社さんにお任せしました。ブランディングが移転の目的の1つでもあったので、ユーロフィングループのロゴマークをモチーフにした円形のデザインを会議室の天井やエントランスの壁に取り入れたり、グループのモットーである”Testing for Life”の文字をエントランスに描いたりしました。什器類のデザインや機能もデザイン会社さんとかなり打ち合わせしました。
大杉
だんだんこだわりが強くなって、予算もどんどん上がって行ったんですが、ここはしっかり初期投資すべきという判断でしたね。結果としてここで働く従業員や来社されるクライアント、当社にご応募頂く求職者の方々へ印象に残るようなオフィスになったと考えています。
加留部
そうですね。近年は採用が非常に難化していますが、働く場所の在り方や働き方を重視して会社を選ぶ方が増えていることもあって、オフィスへの投資が採用の強化につながるのではという期待もありました。
実際、移転してから2名採用できていて、効果を感じています。今後は積極的にホームページなどでオフィスの様子を発信して、より多くの方に当社で働くイメージを持っていただきたいですね。
大杉
社内の従業員満足度サーベイランスも、職場環境項目は以前より上がっていました。移転から間もないですが、勤務環境が改善されていることは少なからず影響しているのではないかと思います。2024年2月には、クォーターごとに行われるユーロフィンジャパン全体のタウンホールミーティングがここで行われました。
今後も新しいオフィスを活かしてグループに貢献するとともに、大型移転のモデルケースとして参考にしてもらえたらうれしいです。
――ありがとうございました。これからの発信を楽しみにしています!
会社概要
- 会社名
- ユーロフィン日本環境株式会社 東京事業所
- 移転先
- 東京都江東区新砂1-6-35 JMFビル東陽町02
- 従業員数
- 約70名(取材時)
- 移転後坪数
- 約300坪
- 企業URL
- https://www.eurofins.co.jp/
- 取材
- 2023年12月